アダルト・ゲーム分割統治
 
 
 
 
「アダルト・ゲーム of the year 1998」によせて。

 

 注:この原稿は、メール・マガジン「週間 ゲーマーズ ライフ」(編集長:桜井駿一)の1999年6月24日発行の第51号に掲載されたものです。自分が書いたものを一年経ってから再び見返してみると、やはり恥ずかしいものなので、誤字・脱字等とおかしな文面、説明不足だった部分は修正してあります。ではどうぞ。

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 今、「鬼畜系」は「純愛系」の下に置かれている。…これが、先月のE-login を見た後の私の正直な感想だった。何となくそんな感じはしていたし、似たような感覚を持っていた方々も多いと思う。しかし実際こういった結果を目の当たりにすると、自分が少数派なんだということが嫌でも感じられるもので、屈折した誇らしさ(?) よりも、こんな小さく狭いジャンルの中ですら少数派でしかないということの方が、重く圧し掛かってくるように感じる。
 
 

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 E-login 誌の6月号には、今年で4回目となるらしい「アダルト・ゲーム of the year」という特集が組まれていた。この手の企画は、結果がどうあれ見ているだけで楽しいという部類のものだから、他の雑誌にもぜひやってもらいたいと思う。雑誌ごとの個性が出てきたりすると、より面白くなってくるはずだ。

 そこで今回の「アダルト・ゲーム of the year 1998」だが、まず評価基準が色々な部門に分かれていることが特徴だ。ヒロイン部門、アイデア部門、シナリオ部門、サウンド部門、セールス部門、初回特典部門、移植部門、ヴォイス部門の計8部門に加え、それぞれの部門のポイントを合計した総合部門がある。中には「えっ?」というものもあるが、それは単なる雑誌のカラーということ済ませてしまってもいいだろう。

 そしてこの中の総合部門が、その年の「ベスト オブ アダルト ゲーム」を表彰する部門とされている。ところがこの総合部門、誌面でも触れられている通り、音声・初回特典がない作品があるにもかかわらず、ポイントが加えられていたりするなど問題もある。しかし8部門のうち、初回特典・ヴォイス・移植の3部門は、ポイント数の大きな部分を占めているわけではないので、特に大きな問題ということもないだろう。だからこの総合部門を、「1998年における面白かったゲーム」部門であると言ってしまってもいいと思う。
 
 

 しかし今回の結果、少し腑に落ちない点がある。断っておきたいのだが、ここで言う結果とは「何で俺が大好きな×××が入ってねーんだよ!」的、或いは「俺の大好きな××が、×××××より下だなんて絶対許せん!」的なものではない。私が腑に落ちない点というのは、『ONE 』と『臭作』という全くの両極端であるかのように見える2つのゲームの、チャートにおける不可解な位置だ。

 どの辺りが不可解なのかというと、まずセールス部門に注目して欲しい。1位は『臭作』である。ここで集計されているポイントだけを見れば、2位と3位のポイントを合計しても追いつかないぐらいなのだから、他のソフトと比べてどれだけ売れたかがわかるだろう。後に公称15万本と自称するぐらなので、圧倒的だったのは間違いないだろう。当然総合部門においても、ベスト3に入るのは確実だと思った人は多かっただろうし、実際私もそう思っていた。では総合部門での結果はどうだったのかというと、なんと『臭作』はベスト3どころか7位なのである。これには驚いてしまった。

 確かにセールスだけがゲームそのものの評価を決めるものではないにせよ、総合部門で『臭作』の上位を行くソフトはすべて『臭作』の半分未満のセールスしか記録していないのに、こんな結果になるとは想像もつかなかった。よほどその他の部門のポイントが重要だったということなのだろうか。それにこんな結果では、まるで『臭作』が「売れはしたけど翌週には中古屋の看板商品No.1」的な、バブリーなゲームだったと捉えられているようではないか。
 
 ただ冷静になって他の部門の結果を見てみれば、その不人気(セールスに比較して、ということ)の理由もわからないでもない。セールス部門以外で『臭作』がランクインしている部門は、アイデア部門とシナリオ部門の2部門のみである。

 更に言えば、アイデア部門の4位はともかくシナリオ部門では10位であり、ようやくランクインしたという印象が強い。挙げ句の果てに、20位まで選出されるヒロイン部門においてさえ、登場する女性キャラクターが8人いるにもかかわらず、1人もランクインしていない。

 まあこのヒロイン部門に関しては、『臭作』は登場する女性キャラクター達と恋愛するというゲームではない(1人だけヒロインに該当するキャラはいるが)、いわゆる「鬼畜系」とされるゲームだから、それは仕方のないところだろう。しかし逆に言えば、セールス以外の部門でのポイントがなくても総合7位にまで食い込めるというのは、実際の売上が半端なものではないことを物語っている。

 ところで、このヒロイン部門において『臭作』とは対照的に、登場する女性キャラクターの過半数をベスト10に送り込んだソフトがある。『ONE 』である。ここでの『ONE 』の人気は凄まじいものがある。まずヒロイン部門だが、いきなり凄い。最初に書いた通り、ベスト10に4人が入っている。それも1位、3位、5位、10位という決してランクインしただけ、という中庸な結果ではない。

  だがさらに凄いのがシナリオ部門だ。『ONE 』はもちろん1位なのだが、2位以下から10位までのポイントを全部合わせても届かないという、圧倒的な1位なのである。さらにサウンド部門・アイデア部門ではともに3位、おまけに初回特典部門でも1位というほとんど一人勝ち呼んでもいい結果だったのだ。

 そして総合部門では堂々の1位。2位の『With You』には迫られたものの(声無しが響いたか)、3位以下を大きく引き離しているので、文句無く「1998年のベストオブアダルトゲーム」であると言えるだろう。

 さてここまでの結果を見てくれば、あえて触れなかったセールス部門でもとてつもなく売れたんだろうという推測が立つところだろうが、実際はどうだったのだろうか。前述の通り1位はダントツで『臭作』だったわけだから、当然1位は望めない。しかしそれでも悪くとも、ベスト5には入っているだろうと考えるのが自然だろう。しかし『ONE 』はベスト5には入っていない。

 それどころかベスト10にさえ、そしてあろうことかベスト20にも入っていないのだ。お分かりだろうか? 年間売り上げベスト20の中にもランクインしないソフトが、その年でもっとも面白いゲームであるという結果が出ているということが。
 
 

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 これは一体どういうことなのだろうか。前述の通り、この投票結果には問題もある。それはこの総合部門が、あくまでもポイントを合計した結果に過ぎないからだ。だが仮に、この総合部門を「1998年で最も面白かったアダルト・ゲーム」部門としてストレートに投票を行ったとしたら、どうなっていただろうか。何となく(根拠薄弱で申し訳ない!)、『ONE 』は依然1位を守り続けるものの、『臭作』との差はさらに広がっていたように思われないだろうか。

 話が飛びそうなので総合部門に話を戻すが、チャートを見る限りこのアダルト・ゲーム業界は、「売れるものは必ずしも良いものではない」とか「売れない作品にも良いものはある」というような、ある種理想的な価値観に基づいて作品の評価を下すような、とても素晴らしい業界であるかのように見える。しかしそんなはずがないのは周知の事実である。

 あるいは極少の可能性として、『ONE 』を買ったほとんどすべての人が投票をし、『臭作』を買った人々はそのほとんどがサイレント・マジョリティだっただけ、とでもいうのだろうか。

それとも、『ONE 』はやった人すべてが投票したくなる程に面白く、逆に「臭作」はやった人の大半がすぐさま中古屋に売り払ってしまうぐらいつまらなかったということなのだろうか。はたまた同じぐらい面白くても、『ONE 』は推せても『臭作』は推せないという、何か特殊な「事情」のようなものがあったのだろうか。
 
 

 この結果を見て最初に私が考えたことは、やはり「鬼畜系」は「純愛系」の下に置かれているということだ。「やはり」などと自分でも言ってしまうぐらいに、この予感は強く感じられていた。その明確な根拠として自信を持って挙げられる事例は、私の中には無いが(申し訳ない)それに近いものは感じられてはいる。

 それは最近活発になってきている、アダルト・ゲームのコンシュマー機への進出だ。相次ぐコンシュマー機への進出は、最初からコンシュマー機への進出を考えたゲーム群が続出することで、それに対する「明らかなコンシュマー狙い」としてユーザーからの批判を生んだ。ファン以外からはしたたかに叩かれた『With You』の記憶も新しいところだ。

 しかしそのゲームの持つ18禁性(ビジュアル面だけの)を排除してでも、コンシュマー進出というメジャーへの挑戦とその成功に喝采を叫んだファンの数は、批判したユーザーよりも多かった。

 常にアンダー・グラウンドとされてきたアダルト・ゲームが、ついにコンシュマーという日の目を見るのである。だから世間に受け入れられたという事実を、まるで我が事のように喜んでしまうことは、そう悪いことでもないかもしれない。

 ただこの流れは、このコンシュマー進出という動きはゲーム自体の「純愛」化に付随する、もうひとつの流れを生んでいたように思われる。

 それは、ファン層のかなりの数の量的な拡大だ。小賢しくも分析させてもらうと、まず準アダルト・ゲーム層とも呼びうるようなファンが、コンシュマー側に存在していた。

この層は、アダルト・ゲームのコンシュマー進出によって、既に『ときめきメモリアル』などによってアダルト・ゲームの『恋愛シュミレーション』の部分(要するに「萌え」だ)に慣らされていて、かつアニメ絵に慣れアダルト・ゲームに興味を持ちつつも手を出すのをためらっていたファンのことだ。

私が言う拡大とは、この準アダルト・ゲーム層とアダルト・ゲーム側にいたコンシュマー化を是とするファン層との融合である。確実にファン(というよりはユーザー)は増えているのだ。
 
 

 こうして、新しく再編され大幅に増えたファン層によってアダルト・ゲーム業界は、「純愛系」が大挙することになったように思われる。こうして登場した「純愛系」ゲームの数々は、その特徴として18禁要素(ビジュアル面だけに止まらない)の薄さが挙げられるが、それは新しいファン層にとっては、性的興奮よりも「純愛系」ゲームのアイデンティティともなっている特有の「甘さ」(萌える、という要素)のほうが重要である、ということの強固な証明だろう。この時点で、アダルト・ゲームの「アダルト」の意味は変わったのだ。

 そして「鬼畜系」とされるゲームを支持することは、品性の面からいっても、世間の目を気にするという面からも、特にプラスになる部分は少ないため敬遠されるようになったのだ。また最近よく言われる「純愛系」と「鬼畜系」の二極分化は、アダルト・ゲーム全体の急激な純愛化に対する反作用だろう。やたらと露骨で凄惨なだけの「鬼畜系」ゲームのパッケージ群が、それを象徴しているように思える。

 そういうわけで「純愛系」が主流派となった現在のアダルト・ゲーム・シーンでは、物理的にも精神的にも、「鬼畜系」は「純愛系」の下にあると私は感じている。
 
 


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 「アダルト・ゲーム of the year 1998 」の結果は、「鬼畜系」は「純愛系」の下にあるということの象徴だったと思う。異論のある方も多いと思う。だいたい何を持って「鬼畜系」・「純愛系」を峻別するのか。

 本当に『ONE 』は「純愛系」だったのか。『臭作』は本当に「鬼畜系」ゲームだったのか(私は違うと思いますよ)。「鬼畜系」と「純愛系」は区別出来るのか。また「アダルト・ゲーム of the year 1998 」では「鬼畜系」・「純愛系」それぞれに、純粋にゲームとしての評価が下されているのか、いないのか。そしてそれは可能なのか。

 そしてこれからの「アダルト」の定義は。私は多分間違っているんだと思うが、それでもいいから皆さんの意見を聴きたい。どうなっていくのが良いことで、どうなっていくことが悪いことなのかではなく、ただこれから先はどうなるのかという単純な意見が聴きたい。本誌にはそういう意義もあると考えているので。
 

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