水平線が遠く彼方で円弧を描き、星の散りばめる夜空を切り取っている。
 高さが高さだからか汗ばむほどの暑さもなく、南洋の地だからなのか身を震わせる寒さも無い。

 艶やかな長い髪を、微かな風が静かに揺らす。

「はぁ…」

 独りぽつんと海を眺めて、木乃香は知らず溜め息を吐いた。

 魔法の練習は夕食後も続けられ、しかし彼女も夕映も目に見えた成果を出せていない。
 エヴァは、当たり前だろう、と鷹揚に笑っていたが、木乃香たちは必要にせまられてココにいるのだ。

 そんな状況への気晴らしも有って、彼女は外へと出てきたのである。
 やはり気分転換を兼ねてカモから解説を受けながら、自身のアーティファクトを読み耽っている夕映を置いて。

 しかし、一人になってみると、色々頭を過るモノがある。

「なんで、やろなぁ… せっちゃん…」

 ぽつりとこぼれたソレは、木乃香を悩ます大きなモノの一つだった。

 アレからまだ3日。
 まだまだこれからだと思うものの、近付こうとするとすぐに逃げられて、どうすればいいのか判らない。

 ふわっと、再び風が悩む彼女の髪を揺らす。

 そこへ、カサっと言う音。

「ん?」

 振り返るとそこには見慣れた顔。

「やっぱり木乃香ちゃんか。
 こんな時間にどーした?」

「横島さん…」

 誰なのかに気付いて、彼女はにこりと微笑んだ。

 その気の無い横島でも、こうも懐かれれば嬉しいもの。
 落ち着きとか女の子らしさとかで勝ってるから、シロとかよりも余計にドキっとしたりもする。 残念ながら、ボリューム面ではかなり負けているので、その分 相殺の感は否めないが。

 そんな不埒な思考に気付く事無く、木乃香は風に髪を梳られながら一言答えた。

「なんとなし風にあたろ、思て」

「ふぅん。
 なら、少し付き合おうか?」

「横島さんがえぇんやったら」

 嬉しそうな笑顔に頷いて、横島は彼女を伴って昼にエヴァの講義を受けたベンチへ向かった。
 
 

 

 

 


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GS美神×ネギま! CrossOver Story
  ざ・がーどまん
          その41   
 
逢川 桐至  


 

 

 

「ちょ、ちょっと、朝倉、あんた」

 二人の反応に、してやったりとばかりに朝倉は笑った。
 それで気付いたのだろう。

「それは、僕と仮契約をしたい、って事ですか?」

 少し顔を強ばらせてネギが問う。

「ん〜? 別にソレ抜きでもお姉さん構わないわよ〜」

「朝倉さんっ」

 揶揄い混じりの答えに真っ赤になる様子を見て、更に彼女はニンマリと笑った。

「ちょっと、そう言う揶揄い方すんの止めなさいよね。 こいつはまだガキなんだから」

「なによ、アスナ?
 あんた焼き餅妬いてる訳?」

「な… なに、バカな事言ってんのよ、あんたはっ!!

 面白いように反応する明日菜に、「マジかしら、コレ」などと朝倉は内心で笑いまくった。
 普段より反応が良過ぎる事に、何処かで疑問を感じながら。

 ヒートアップする相方を見て、逆に冷静になったのだろう。
 再び真面目な表情を浮かべて、ネギは彼女に問い掛けた。

「何故急にそんな事を言い出したのか、聞いてもいいですか?」

 ここは返事を茶化すタイミングでは無かろう。 そう朝倉は踏んだ。
 この少年は有る点において、堅過ぎるほどに堅物なのである。 短いながらもこれまでの付き合いで、彼女はそれを理解していた。 白い小動物の薫陶もあって。

 だから、一転 表情を引き締めて頷いた。

「…ちょっと長くなるけど、いいかな?」

「でしたら、何処かに腰を落ち着けた方が良くないですか?」

「そうね」

 朝倉は頷き、ネギは何処がいいか軽く思案する。 …すぐ横で、「ちょっとあんたら、何、人を無視してんのよ〜」と叫んでいる明日菜をよそに。

「これから学園長先生の所に行く途中だったんで、3−Aの教室なんかはどうでしょう?」

「う〜ん… いいんじゃない?」

 修学旅行明けの日曜だ。 まぁ誰も居ないだろう。
 頷き合うと、二人は歩き出す。

「こら、ちょっと、あんたたちぃ〜っ

 叫べど二人の足取りは止まらない。

 仕方なく、明日菜はその後を腹立たしそうに追い掛けた。

 

 

 

 星空を切り取る屋根の下。 並んで腰を下ろすと、二人はたわいもない話を始めた。
 魔法と言う不可思議に触れたばかりの木乃香に強請られて、主に自身の体験を彼が話すと言う形で。

 横島のソレが魔法界から見ても一般的とは言えない事を、彼女はイマイチ理解していない。
 だから、至極楽しそうに聞き入っていた。

「ほわぁ… それ、ほんまやの?」

「ホントだって。 俺ほど宇宙を肌で感じ取ったヤツはおらんと断言出来る。
 で、そんなこんなでそいつに懐かれちまったのはいいけど、その後が大変でさぁ…」

 何の事かと言えば、グレムリン騒ぎで魂だけで宇宙へ行った時の事。
 丁度 満天の夜空の下。 まず思い付いたのがソレだったのだ。 何となくの選択なので、これと言った他意は無い。

「けど、生まれたてやったら可愛かったんやない?」

「まぁ、そう言えなくも無かったけどさぁ…
 機械っちゅう機械が、ぜ〜んぶダメにされちまってなぁ」

 遠い目で彼方を見る。
 賠償だなんだと奔走した美神に、八つ当たり的に受けた折檻を、つい思い返してしまったから。

「けど、そーゆー子もいてはるんやねぇ。 ウチ、お話にしかいやへん思てたわ」

 ほわほわと笑いながらの彼女に、横島も笑顔を返す。

「妖怪だの幽霊だの悪魔だの神様だの、探しゃあきっといっぱい居るぞ。
 木乃香ちゃんも鬼だのなんだの見たんだろ? それに、エヴァちゃんたちだっているしなぁ」

 誰より偉そうなココの主は、言うまでもなくモロにそちら側の存在だ。
 茶々丸やチャチャゼロ、それにカモも、括りとしてはやはりそうなる。

 あぁそやったねぇ、と木乃香は頷いた。

「そーゆーたら、エヴァちゃんも吸血鬼なんやった… ウチ、すっかり忘れてたわ」

「この世界にゃ、魔法使いなんて非常識な人間が居るんだぜ。 なら、なんでもありだろ?
 ま、人だろうとなんだろうと、別に違うからどうってもんでもないしな」

 自分を棚に上げてそう笑う。

 彼にしてみれば、そんな事は本当に些細な問題でしかないのだ。
 元の世界での知己の人外率が高かった事もある。 何せ美神事務所の構成メンバーときたら、『前世が魔族』、『元幽霊』、『人狼』、『妖狐』と、出自だけなら横島が一番普通になってしまうくらい濃いメンツだったのだ。

 そんな言葉に、木乃香も笑って頷く。

「そやね…
 吸血鬼やぁゆわれたかて、エヴァちゃんはエヴァちゃんやもん。 ウチらのクラスメートで、お師匠さんや」

「おう。
 重要なのは、美女・美少女か、それ以外か。 それだけだ」

「あはは… そぉゆうとこ、横島さんらしぃわぁ」

 胸を張る彼に、優しい視線が向かう。

 その飽くなき欲求そのものは、確かに数多い彼の欠点かも知れない。 だが、木乃香には『愛すべき欠点』にも取れていた。
 完璧な人間なぞ存在しないし、これくらいおバカな方が下手に陰湿なモノより余程良い。 そこからも派生しているのだろう横島の明るさは、無思慮であろうと時に好ましくもある。

 だって、ついぞさっきまで悩み込んでいたのだ、木乃香は。

 なのに、今はこんなにも心が落ち着いていた。
 悩みが解決出来た訳ではないけれど、その為に前を向こうと言う気になれている。 少なくともソレは、間違いなく目の前の男のお蔭だろう。
 何をした訳でもないし、それ以前にそこまで意図したかすらも定かでないが。

 そんな彼女の内心に気付いたのか、横島がタイミング良く問い掛ける。

「ちょっとは気が晴れたか?」

「…うん。
 おおきにな、横島さん」

 そう言うと、隣に座る彼の肩へと木乃香はことんと頭を預けた。
 繰り返すが、 射 程 外
 繰り返すが、中学生と言えど彼女は十二分に美少女だ。 将来が楽しみな少女に、こんなにも懐かれれば嬉しくない筈が無い。
 髪から香るいい匂いに自制を乱されそうになりながら、横島の顔は見事に緩んでいた。

「…ウチ、せっちゃんとまた仲良ぉなりたいんや。
 なんでアスナばっかと仲ええのか、なんでウチの側 来てくれへんのか、それ知って もっかい仲良しになりたいんや。
 せやから悩んで何もしぃひんかったら、あかんよね」

「ん、そだな。 木乃香ちゃんが、したいようにすりゃいいんじゃないか?
 とりあえず刹那ちゃんもかなり気にしてるしな。 …さっきからそこで」

 ガタタッと響く小さな音。

 彼の言葉とその音とに、ハッとして木乃香は振り返る。

「せっちゃん?」

 遠退いていく人影らしきモノに、彼女もまた慌てて走り出した。

「ま、待ってぇ。 せっちゃん、待ってぇな」

 一人取り残されるカタチになった横島は、軽く肩を落しながら苦笑を浮かべた。

「ま、俺より幼馴染だよな」

「テメェデ仕向ケトイテ、ナニボヤイテヤガル」

「うぉっ?!
 って、急に声掛けんなよ、怪奇現象」

 何時の間にかそこに居たチャチャゼロに、横島は驚いて飛び上がった。
 さすがは殺戮人形と言う事か。 その癖、殺気も無かったから全く気付けていなかったのだ。

「仮ニモテメェノますたーニ、随分ナクチヲ利クジャネェカ。
 ソレハトモカク、御主人ガ呼ンデルンダ。 俺ト一緒ニ来テ貰オウカ」

 

 

 

「で?」

 3人以外、誰の姿も見当たらない教室。 念を入れて人避けの結界を張ったそこで、行儀悪く机の上に腰を下ろした明日菜が訊く。
 ネギがどことなく不満そうにその不躾な姿を見ているが、彼女は気にせず朝倉へと視線を向け続ける。

「…最初はさ。 はっきり言って、そんな気なかったのよね、私も」

「でしょうね」

 もう丸2年の付き合いだ。 明日菜も、傍観者たろうとする彼女の考えはなんとなく読めていた。
 まぁ、だからこそ驚いた訳だが。

 自身の机に座って、肘を付いた朝倉は更に言葉を続けた。

「けど、ゆえっちがさ… あんな事になったじゃない?」

 その言葉に、彼女の隣り、あやかの席に腰を下ろしていたネギがぴくっと動く。
 明日菜も、それで納得いったように頷いた。

「そっか…
 このかのお父さんとかネギみたいに、夕映ちゃんも石にされちゃったのよね…」

 但し、彼女が聞いていた夕映の被害は、どうやら石にされたらしい、と言う事だけ。

「それだけでも充分アレなんだけどさ。
 いくら魔法使いだからって、私らの為にあんな目に遭わせちゃったってのがね」

 ぽつりと零されたその言葉に、二人は目を見開いた。

「え゛っ? 夕映ちゃんも魔法使いなの?
 ちょっと、どう言う事よ、ネギっ!?

「えっ?! ぼ、僕もそんな事知りませんでした。
 本当なんですか、朝倉さん?」

 尋ねられて、朝倉も首を傾げながらあの時の様子を口に出す。

「あの白いのが襲ってきた時に、ゆえっちがなんかパァッと光らせて抑え込んでくれたのよ。 だから、それで私と本屋ちゃん、逃げてこられたんだけど…」

 アレを見たのだ。 夕映が魔法使いではないなんて、彼女が思う筈は無い。
 実際には、誤解でしかないが。

 その話は初耳だっただけに、ネギも驚いた。

「あの少年を?」

 自分がロクに手も出せなかった相手だ。 その驚きは一入。 魔法使いの中で自分が最底辺なんじゃないかと、そんな不安まで感じていた。
 ネギの魔力は一線級の魔法使いと比べても遜色は無いし、少しの経験を積むだけでも充分上に食い込めるだけのモノを有しているのだが。

「そーなんだけど…
 あれ、聞いてなかったんだ?」

 不思議そうな様子に、こくりと頷いて応える。

 何せ目まぐるしく状況が流れただけに、彼はのどかからも詳しい事を聞けていなかったのだ。
 その後は、気絶して西の本山に担ぎ込まれ、翌日はハルナが居た為その手の話を聞けず。 その夜にのどかが訪ねて来た時も、人目も有りあまり時間が取れなかった事もあって、やはり詳しい話までは聞けていなかった。
 夕映がどんな目に遭ったのかすら、帰ってから初めてカモに聞かされたと言う有様だったのだから。

「だから、ゆえっちはあんな酷い目に遭わされたんだって思う」

「…?
 夕映ちゃん、石にされただけ、じゃなかったの?」

 聾桟敷に近かった明日菜も、さすがにおかしいと感じられたのだろう。
 その様子に彼女は聞かされてないと見て、朝倉は一瞬 口篭った。 カモは明日菜にも、相応に気を使っていたから。

 だが、と思い返す。
 考えれば彼女もまた、ずっぷりと浸かり込んだ関係者なのだ。 今回の件の一面を理解しておくのは必要な事だろう。
 そう思案して、すぐに口を開いた。

「私が見たのは、真っ二つになった石像だったわ」

 ぽつりと呟かれた言葉が、朝倉の受けた衝撃を伝えてくる。

 話で聞いただけのネギすら、張り裂けそうな思いを感じた。
 ましてや夕映に庇われた当人が、その惨状を目の当たりにしたのだ。 どれほどのショックを受けたかなぞ、考えるまでもあるまい。

「そんな事に… なってたの?」

 無事な姿を見ては居ても、それは明日菜にとってショッキングな話だった。

 戦いと言う物を身をもって経験するようになって、まだ2週間足らずである。
 そんな彼女の知る一番危険な状態は、あの少年によってなされたネギの石化。 次いで小太郎との戦い辺り。
 エヴァとの魔法戦は、下手に規模が大き過ぎたから実感が薄い。 しかも本人に試す様な遊びの部分が有ったのだから尚更だ。
 知識が無いなりに、夕映に起きた事がそれらより死に近いと、明日菜にはそう感じられた。

 顔を蒼ざめさせる彼女を見て、まずかったかなぁ、とも思う。 だが、ネギと関わり続ける以上、通る事になる道だ。
 朝倉は、空気を変える様に大きく手を伸ばして身を逸らすと、再び口を開いた。

「で、話 戻すけどさ。
 ネギ君やゆえっち、本屋ちゃんやこのかにアスナ。 エヴァちゃんに茶々丸さん。 桜咲に龍宮、長瀬。 私が知ってるだけでも、魔法使いやそっち関係のトンデモ人間ってクラスにこんだけ居た訳よ。
 カモっちとの約束もあるから、もうスクープには出来ないってけどさ。 だからって、じゃあ知らなかった事に出来るかって言ったら、私にゃ出来ないよ」

「でも、出来るなら、本当はそうして貰えた方が…」

 魔法に関る事が、即 危険に直結する訳ではない。

 だが、実際に危機に瀕した時。 受けるだろう被害の程度は、まず確実に酷くなる。
 それこそ夕映がそうだったように。

 だから、掟うんぬん以前に、ネギは出来るだけ知らずに、関らずにいて欲しかった。
 仮初めの従者になってしまった明日菜やのどかに関してすら、内心そう思っているくらいなのだ。

 明日菜にも、彼のその気持ちは判らなくもない。 クラスメートが危険な目に遭うなんて、避けられるならその方がいいのだ。
 それが顔に出てしまったのだろう。

「ねぇ、アスナ?」

「なに?」

「あんた、今から無かった事にして忘れろって言われたら、そう出来る?」

 まっすぐに見詰めてくる朝倉に、彼女は思わず口篭った。

「それは…」

 一瞬チラリとネギへ視線を向ける。

 ただ見ているだけだって、危なっかしさを感じる少年だ。
 そんな彼が危険に向かって走っていくのを、見ないフリして放っておけるか。 そう問われたら、明日菜には不可能だとしか言えない。
 それに何より、自分の手が必要だった事件が度々あったのだ。 そんな自覚が有るだけに、余計放ってなど置けない。

「そうね。 そんな事言われたら、ぶん殴ってやるわ」

「…って、アスナさん?」

 頼みの綱の反旗に慌て出す彼を見詰めて、明日菜は巧く言えないなりに自身の心情を語った。

「今の夕映ちゃんの話、もの凄くショックだった。 ネギ、あんたもだけど、このかやクラスのみんな、誰にだって起きて欲しくないし、自分に起きたらって思ったらそりゃ恐いわ。
 けどね。
 起きるかも知れない事を知ってて、なのに何もしないで、何も出来ないままでいるなんて… そんなの、私はゴメンだわ」

 基本的に、彼女は人の良過ぎる姐御肌の人間なのだ。
 それも、考えるよりまず行動、と言うクチの。

 でも、と口篭りつつ、ネギもまた自身が頼ってる事を自覚しているから、巧く言葉が形作れない。

「気持ちは判んなくもないけどさ… カモっちからも、それなりに話を聞いてるし。
 けど、私にしろ明日菜にしろ、本人が自分の意志で決めた事だからね。 それをただ危ないからって言って闇雲に遠ざけようとするのは、単なる傲慢じゃないかな、ネギ君」

 なまじ、その言葉に理を解する頭が有るから、彼は開き掛けた口を閉ざすしかなかった。

 

 

 

「待ってぇなぁ…」

 思わずその声に足を止めたくなる。
 だが、止めたら止めたで、刹那にはその後に何をどうすればいいのか判らない。

「なんて厄介な事を…」

 この状況を引き起こしてくれた年上の少年に、思わずグチが零れる。

 あのちょっとイヤンな雰囲気を、無い方へ逸らしたいとは思っていた。 だが、だからと言ってこんなカタチでと言うのも、彼女の望む所ではなかった。

 気配と音とを殺し、塔内の一室へ身を潜める。
 聞こえて来る木乃香の声に、口の中だけで謝ると、その足音が遠退くのをじっと待った。

 そうして、やがて音が遠くに去ると、さっきの木乃香の言葉が胸に蘇る。

 嬉しかった。 ただ嬉しかった。
 もう一度あの頃の様に。 そう出来たらどれ程幸せだろう。
 明日菜にも言われたように、自分だってそうしたいのだ。

「友だち、か…」

 共闘を通して培ったもの、とまでは言えないが、同じ目的を目指した故の親近感。 それがあるから明日菜の手を取った。
 しかし近付けば近付くほどに、なまじ木乃香と同じく より内側へと働きかけて来るだけに、彼女もまた刹那にとってどうしていいか判らない存在になってきている。
 真名や楓のように、酸いも苦いも噛み分けた上での距離を取ってくれないから、尚更に。

「私だって…」

 思わず願望が零れ掛ける。

 だが。
 と、自身の中の後ろ向きな部分が待ったを掛けた。
 木乃香も明日菜も知らないのだ。 自分が人ならぬ身だと言う事を。

「く…」

 思わず吐息が零れる。
 自身を抱き締める腕が震えた。

 人に限らず、集団と言うものは異物を厭うのだ。
 その無思慮な反応は、しかし異物を含む事のデメリットを考えれば、ある意味 健全な反応であり普遍的に起こり得る事なのである。

 そんな扱いに晒され続けた刹那だからこそ、自身の正体を明かす事を躊躇う。
 ソレを知って受け入れてくれたのは、詠春を始めとしたホンの僅かの人だけ。 そんな彼をトップに頂く組織としての『西』ですら、けして安息の場には なり得なかった。

 他には、何も知らなかった木乃香。
 彼女だけだったのだ、隔意無く接してくれたのは。 伸ばした手を取ってくれたのは。

 木乃香も明日菜も知ったその上で、受け入れてくれると信じたい。 信じたいからこそ悩む。
 知られていないからこその、今の平穏をも守りたいから。

 だから、エヴァの正体を知って尚受け入れている様子を目にしても、刹那はそれでも踏み出す事が出来ないでいた。
 京都の一件で下手に距離が取れなくなった事が、彼女の心の迷宮をより深い物へと変えていたのだ。

 そんな刹那の耳が、近付いて来るナニモノか達の交わす声を捉えた。
 意識を戻して、気配を殺し様子を窺う。

「…随分と下まで降りんだな」

「イイカラ黙ッテ従エ」

 幼児ほどの大きさの人形を肩車した男が通る。
 刹那は、なんとなくその後を追い掛けた。

 

 

 

 案内されたのは、少し薄暗い、しかし雰囲気のいいそこそこの規模のホール。
 中央に配されたテーブルに、彼女は居た。

「遅いぞ、チャチャゼロ」

「ナニ荒レテンダ、御主人?」

 横島を伴って来てすぐの言葉に、ケケケと笑いながらチャチャゼロは聞き返す。

 まぁいい、と視線を自身に向けて来るエヴァに、横島は呼ばれた理由を訊ねた。

「こんな夜中に何の用なんだ、エヴァちゃん?」

 中での時間は、そろそろ0時近い。 昼前に入ってからの経過時間も12時間を越えている。
 だから、横島にしてもそろそろ眠かった。

「とりあえず、そこへ座れ」

「おお、なんか美味そうだな」

 示されたのは、彼女の正面の席。
 その席の前にも、エヴァの正面に置かれている様な料理が並んでいた。

「貴様の話を詳しく訊きたいと思ってな。
 どうせだから軽い食事の席を設けてみた」

 手にしたワイングラスを揺らしながら、エヴァはそう笑った。

 とうに夕食は済んでいるが、何せ万年欠食児。 美味しそうな物を食べられる機会を逃す筈も無い。
 ふらふらと席へと向かった。

「お、ども… って茶々丸ちゃんじゃねぇな」

 椅子を引いてくれたのは茶々丸に似た、しかし決定的に持つ雰囲気の違う少女。
 キャンドルでゆらゆらと灯された明かりの下。 よくよく見れば、周囲には同じ様な少女たちが並んでいる。

「アレの姉たちに当たる私の下僕どもだ。
 残念ながら、今の私ではこの別荘でしか仕えさせられんが」

「へぇ」

 頷きながらも、彼の手はとっととナイフとフォークを手に取った。

「どうせマナーなぞ知らんのだろう? 好きに食べるがいい」

「ほっとけや。 じゃ、遠慮無く貰うぞ」

 ガツガツと貧るように食べ出す彼に、一瞬 眉を顰めるものの、エヴァもまたマナーに則って食事を始める。

 彼女は美食家ではあるが、別に大食漢と言う訳ではない。
 メイン・デザートと続けて運ばれて来る料理を先に食べ終えると、そのまま横島を眺めて思考に耽る。

 初会見の後、学園長からもある程度の話は聞き出していた。

 ただ、その話はどうにも穴だらけだったのだ。 エヴァは潜在的な敵対関係にもあるので、情報が絞られるのは仕方ない。
 …のだが、それにしても推測がそのまま告げられている部分が多過ぎた。
 夢への侵入と言ったポピュラーな方法だけでなく、本人の発言の真偽を確かめる方法はいくらでもあるのだ。

 その上、アルビレオにまで会わせていると言う。
 あの男のアーティファクトを以ってすれば、本人が忘れている事すら知る事が出来る筈なのだ。

 その不可解さ故に、爺へのお仕置きを後に回してまで、理由を作って彼を呼び出したのである。

 だが、今日の彼の話で納得がいった。
 明日菜のようなマジックキャンセラーではないが、この男には魔法を誤作動させる要素が有るらしい。 恐らくは、本人の言う霊能力が引き起こしているのだろう。

 そんな事をぼんやり考えながら眺めている内に、やがて横島の食事も終わった。
 夕食は夕食で人一倍……なにせ同席して居たのはエヴァと木乃香に夕映である……食べまくっていた筈だが、目の前でディナー相当のコースを丸々平らげている。
 良く入る物だと感心の眼差しを送ると、満面の笑みを返された。

「いや、美味かった美味かった。
 夕飯もだけど、ここの食事は美味くていいなぁ」

「そうか? あとで茶々丸に伝えておこう」

「茶々丸ちゃんなんだ、作ってんの。 いい嫁さんになるな」

 笑顔で曰う彼に、なんだこいつはとばかりの苦笑を浮かべ、しかしエヴァはすぐに気を取り直した。

「さて、食事も済んだ事だし、少し話でもしよう」

「んで、何が訊きたいんだ?」

 察しの良い言葉に、思わず口の端が歪む。

「貴様自身の事だ」

「は?
 いや、俺はどっちかっつーと、こうボンキュボンな美人の方が好みなんで…」

 手でジェスチャーしながら、横島は溜め息混じりに呟いた。

「誰が貴様ごときを好きになったと言ったかっっっ!!

 その言葉に思わず激昂して、エヴァはテーブルを叩き付けながら立ち上がる。

「じょ、冗談。 冗談だって…」

「次にふざけたら、その首、もぎ取るぞ。 まったく…
 そうだな。
 まず、貴様がここ魔法協会に与する事になった顛末から聞かせろ」

 

 

 

 【ちょ、ちょっとネギ。 続くなんて私 聞いてないわよ〜っ】

 


 ぽすとすくりぷつ

 いかん… ちょっと調子崩してる間に追付かれた(T_T

 それはそれとして、やっとく事が溜まってて高音ちんがまた遠いのが泣ける。
 話自体も亀の歩みになっちゃってて、その辺もごめんなさい(__) たくさんの人間がそれぞれに考えて動いてるから伸びてるって部分もありますが、基本的に私の技能が足りてないのが問題ですね(苦笑)


 
 

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