「は〜っはっはっは〜 く〜くっくっく…」

 ご機嫌なエヴァの高笑いが響き渡る。

 対照的に、海に面した端の方でしょんぼりと佇む影が2つ。

「あら、どないしたもんやろなぁ…」

「どうもこうも、暫く経てばどっちも収まるんじゃないスか?」

 両者を眺め、木乃香とカモは溜め息を吐いた。

「けど、なんや重傷そうやぇ?」

 言いながら見詰める視線の先には。

「俺はぁ、むっちんっきゅっばぃ〜んっが好きなんや〜〜
 気持ちよくなんか、気持ちよくなんか… おお〜ん…」

 なんか色々な葛藤を抱えてのたうち回る横島。

「違うです〜 ノーカンです〜!! 夢です〜!!! 犬に噛まれただけです〜!!!!

 海に向かって真っ赤な顔で叫び続ける夕映。

 燦々と降り注ぐ朝の太陽が、彼らの周囲だけ沈む夕暮れだ。

「ケッ… ツマンネェ事サセヤガッテ」

「全くもって面白過ぎる。
 チャチャゼロまでマスターになれるとはな。 フハハハハハハ〜」

 ふてくされる下僕を従え、珍し過ぎるオモチャに浮かれるエヴァは、絶好調だった。

 

 

 


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GS美神×ネギま! CrossOver Story
  ざ・がーどまん
          その39   
 
逢川 桐至  


 

 

 

 夕映の望まぬキスの後。
 やはりスカにしか見えないマスターカードを見て、エヴァは不意に思い付いたのだ。

 ヒトではない、しかも『魔法使いの従者』相手だと、どう言う形になるのだろうか、と。

 放心している二人の下の契約陣はまだ輝いている。
 ぽいっと、その外へ真っ白になっている夕映を放り出すと、エヴァは自身の最初の従者を呼び出した。

「チャチャゼロ」

「ナンダ、ゴ主人?」

 呼び出しに応じて現れる、小さな絡繰り人形。

「わぁ〜、人形さんがしゃべっとる。 さすが魔法やぁ」

 驚いてくれたのは、残念ながら木乃香だけだったが。

「お前に、ちょっとやって貰う事があってな」

「ン? ソコノ木偶デモ斬リ刻メッテカ?」

 ケケケと笑う様は、愛玩用と言うより呪い人形そのものだ。
 戦闘にしか使えないような諸元持ちだけに、それ以外の何物でもない。

「いや、なに、簡単な事だ」

「オイ、ナニヲ?」

 むんずと襟首を掴まれ持ち上げられて、チャチャゼロは初めて不審の声を上げた。

 エヴァはそのまま、彼女の顔を固まったままの横島の顔へと押し付ける。
 再び放たれる契約の閃光。

 カモは、そんな頭の痛い状況に、額へと手を当てた。

「おい、小動物」

 術式の基本構成は、魔法使いとその従者との間に繋がりを作る事。

 どんな人間でも、魔法使いになれない訳ではないこの世界。 だから、主客は幾らでも転じ得る。
 …とは言え、使役目的で作られた非生命型の魔力駆動体までマスターとして取り扱うような、そんなバカなシステムになっている筈が無い。

 …なってる筈なぞ無い、筈だったのだが。

「へいへい、コレっス」

 諦めた様に、要求を読んだカレは出来立てのカードを手渡した。
 そこに描かれていたのは、見慣れた横島のスカ画像。

「そうかそうか、そうくるか。 くくくく…」

 そんな有り得ない状況。 だが退屈を囲っていたエヴァにとって、異常事態が起き得る事を受け入れてしまえば、これはこれで楽しみとなる。

「そっスね…」

 逆に、どんなに頑張っても横島の契約では報酬が手に入らないと知って、カモはやさぐれていた。

 

 

 

「…むぅ。 そうか」

 ガンドルフィーニの報告に、学園長は髯に手を当て考え込む。

 学園長室の大きな机の上に敷かれた布団の中で、寝転ぶ彼の姿は一種 異様だ。
 すぐそばで、設置されたテーブルを魔法先生たちが、真面目な顔で囲んでいるから尚更に。

 あまり深刻に悩んでいなそうな学園長に、シャークティがキツ目の視線を向けた。

「彼女に取り込まれた魔法使いが出る事になるのは、些か問題が有りませんか?」

「そうですね。
 しかもそれが木乃香さんと言うのは、さすがに放置出来る事では無いと思いますが」

 彼女の言葉に、刀子も同意した。

 この二人は、この場に居る者の中でもエヴァとの関りが薄い側に属する。 それだけに、彼女の前歴に対する忌避感も強く、この事態に対する危惧が強かった。

 何せ遍く恐れられた賞金首だったのだ。
 そんなエヴァの影響下に、日本の東西 両魔法組織のトップの縁者が入る事になる訳で。 それを看過出来ると思う方がおかしいだろう。

「しかし、このかの事は婿殿の差し金じゃからのぉ」

 布団の中で痛みに堪えながら、顔を向けてすぐ横へと話を振る。
 それに苦笑しながら、修学旅行と同じくして戻ってきていたタカミチは頷いて同意した。

「まぁ、そうでしょうね」

 詠春とも親交が深いだけに、彼にとってそれは自明の事。
 刀子たちとは逆に、エヴァの事も良く知っているから、その事に対する危機感もまるで無かった。

「つまり、学園長先生も高畑先生も、彼女の邪魔をする必要は無いと?」

 にこやかな顔を崩さず、明石が一同を代表して尋ねる。
 この場には、この二人以上にエヴァの事を知っている者は居ないのだ。

「今は静観じゃな。 無論、後で本人たちからも問い質すつもりじゃが」

「そんな悠長な」

 シャークティが睨み付けるように見詰めてくるのを、ふぉっふぉっふぉっと笑って顔をタカミチに逸らす事で流した。
 再び話を振られた彼は、やはりいつもの苦笑いで口を開く。

「まぁ、エヴァがその事でナニカを企むって事は、まず無いと思いますけどね。 彼女は、重要な事であれば有るほど、自分の手でやりたがりますから。
 そう言う意味では、木乃香君や夕映君にはこれ以上無い導き手かも知れません」

「そうじゃの。
 それよりワシには、横島君の方がよっぽど頭が痛い」

 影響力を少々低く見積もりすぎとった、と枕に顔を伏せる。

 高い能力と色々な意味で裏表の無さ過ぎる人間性は、言うまでもなく当初から考慮してあったが、にも拘らず現在 当初の予定の範疇から事態は飛び出し掛かっていた。

 文珠そのものの利便性に、彼が言い出したと言う解呪法もそうだが、エヴァにアルの事が知られてしまったのも小さくない。 勿論、エヴァ、木乃香と立て続けに行われた仮契約も、である。
 ちなみに、アルの件に関しては、横島の口から男の情報が出る筈が無いと言う予測もあっての事。
 実際、木乃香があの時一緒に居なければ、今回の流れにはならなかっただろう。 一緒に居たと言うその事自体が、本来 近右衛門の前提に無かったのだ。 この点は横島の所為ではなく、アルの所為だが。

 ただ、それらは けして悪いだけの結果ではなく、一面 良い側面も合わせ持つ。

 アルの事にしても、ネギが居る期間内に彼と会わせる予定だったから、ここ1年でのエヴァとの邂逅は折り込み済みだった。 彼女の現状と処遇に関しても、やはりネギがエヴァを頼る展開が予定の流れだったから、相応に改善する方向でいたのが事実。
 仮契約にしても、エヴァが夕映に説明していた様に、木乃香の安全維持の上では けして利点が小さくない。

 単に予定より早く、しかも一時に起きてしまたと言う点。 そして何より、それがコチラ側の制御下に無かったと言う点が問題だったのだ。
 それは、この先でも自分たちの想定が容易に覆されかねない、と言う事とイコールなのだから。

 だが横島の事は、逆にシャークティたちには問題に感じられなかったらしい。

「彼、ですか?」

「確かに能力はとんでもないですが…」

 しかし、いくらでもコントロール可能なのだ、と言外に二人の顔は言っていた。

 ある一定範囲の女性が、彼に面と向かって希望を述べるだけで、理非も善悪も考えず横島は従うだろう。 それは、アレなアプローチを目の前で繰り返された二人の実感だった。
 ぶっちゃけ、色仕掛けで制御可能であり、しかもソレは『見た目幼女な』エヴァには不可能な手段なのだ。

 二人の言わんとする事に、気付いた魔法先生たちが苦笑する。
 それは、横島への評価が、基本的にそう言うモノだと言う証左だった。

 …尤もそうでなくば、彼を排除しようと言う動きが少なからず有っただろう事は想像に難くない。

 

 

 

「さて、いつまでボケている?
 さっさと話を続けるぞ」

 一頻り笑い続けて気が済んだのか、ごーいんぐまいうぇいにエヴァはそう曰った。

 それにじとっと向かう視線。

「なんだなんだ? 所詮本契約でもない仮契約を、いつまで引き摺っている」

「そう言う問題とちゃうわっ
 事は俺の魂の尊厳に関るんじゃ。 こんな事 お母んに知られたら、殺されてまうやんか〜」

「…何が魂の尊厳だ」

 四つん這いで嘆いていた横島の背を、彼女はムンズと踏みつけて潰した。

「なぁなぁ、ゆえ〜 横島さんとちゅーすんの、そんなにややったん?」

「いえ、イヤだと言うか、やめろショッ○ーと言うか、いっそ殺して欲しかったと言うか…」

 ふ、ふふふふ…と言うドンヨリとした笑い声と共に、目を曇らせきった夕映が呟く。

 椅子に座っていると言うのに、ゆら〜と揺れ動きながらの彼女に、まだダメみたいやなぁ、と苦笑い。 心なし、夕映の口から白いナニカが漂い零れている様な気すらする。
 木乃香は、色々と途方に暮れた。

「それより、だ。 さっさと、アーティファクトを出してみろ」

「へいへい。 あであっと」

 投げ遣りの声で呼び出されたソレは、予想通りにオプションが増えていた。

 ハゲヅラの左右から突き刺さったように突き出たナイフの刃先と柄。 例によってプラスチックか何かで出来たようなソレは、勿論、中を貫いてなどいない。
 そして、やはり頂点から、にょろんと豚の尻尾の様に丸まった毛が1本。

 それぞれ1つ、せめて2つ程度なら、充分宴会の余興にも使えよう。 だが、ここまでゴテゴテと装飾過剰になってしまうと、最早笑うに笑えない。

 さすがの横島も、自分の手にしたソレを見て、深〜く溜め息を吐いた。

「ゆえとその子で増えたんが、剣と毛ぇやよねぇ?
 どっちがどっちなんかなぁ〜?」

「ナイフがチャチャゼロだろうな。 性格的にも合ってると言えなくもない」

 木乃香の何気ない呟きに、エヴァが答える。

「な、なら、あの毛が私に合ってると言うですか?」

 簡単な抹消法だ。
 だが、夕映にも彼女のその言は聞き逃せなかったらしい。

「そう言う事になるだろうな。
 ついでに言えば、蝶の仮面は私だろう」

 ハゲヅラよりマシと言う願望混じりの言葉に、今度は木乃香も反応した。

「したら、ウチがヅラやの?
 よ〜こ〜し〜ま〜さ〜ん〜」

「い、いや。 ンな事、俺にゆわれたかて」

 プクっと頬を膨らませた木乃香と、目の座った夕映とに睨まれて、横島は思わず後退る。
 周囲へ視線を逸らして、その先に居たカモへと目で助けを求めた。

 埒が明かないと見たのだろう、カレはそれに応えて口を開く。

「そんな事より…
 兄さん、機能の方はどうなんで?」

「そ、そうだな。
 つーても俺じゃ判らんから、取り敢えず茶々丸ちゃん、パス」

 ぽいっと投げ渡されたアーティファクトを、彼女は躊躇い無く被ると鼻へと手を添える。
「1つは、ノクトビジョン
「1つは、 暗視鏡 ではないかと。
 もう1つは…
 これは、なんでしょうか? 視界に変化有りません。 何らかの条件発動型の機能である可能性が高いと思われます」

「のくとびじょん、ってなんなん?」

「闇の中でも、視界が維持出来る機能です。
 紫外線に対応しているのですから、赤外線も、と言うのは当然かも知れません」

 茶々丸の説明に、へぇ〜、と木乃香が感心の声をあげる。

「しかし、やはり使えそうで使えんな。 暗闇でそんな物被っていたら、確実に変質者扱いだぞ。 まぁ、本人自体は既にそうだが。
 それにもう一つの方も、判らん事には何とも言えんし…」

「俺の所為ちゃうわっ

「つーか、横島の兄さんくらいっスよ。 こんなおかしな話は。
 それに…」

 ぷはぁっと煙を吐き出して、カモは続けた。

「今回、俺っちは『兄さんがマスターになるように設定した魔法陣』を描いたんですぜ? だってのに、蓋を開けてみりゃ兄さんが従者だ」

「確かにな。 契約が起こらないのなら、まだしも…
 全くもって興味深い」

 カレがそうしていた事にエヴァも気付いていたが、面白そうだからと放置していた。
 訓練の都合、夕映を従者にするつもりだったが、もし横島が彼女のマスターになれたとしても破棄させれば済むだけの話。 本契約ではないからこそ、興味を優先した訳だ。
 結果、有る意味予想通りに面白い事になってくれたから、エヴァとしては文句なぞ無い。

「ッテカ、ソンナツマンネェ事ノ為ニ、呼ビ出サレタノカヨ…」

 不貞腐れるチャチャゼロに、これはお前用だ、と横島のマスターカードを手渡した。
 ためつすがめつ眺めた後、彼女は溜め息吐いてそれでも懐に納める。

「それはそれとして、真祖の姐さんとこのか姉さんたちとの契約はしないんスか?」

「ふむ。 そう言えば、そっちが本来の用だったな。
 さっさと済ますか」

 

 

 

「で、やる事があるって何なのよ」

 昼食ついでに外へ出て、明日菜はネギに問い掛けた。
 寮から随分と遠く離れた散策も、2度寝後の腹ごなしと思えば悪くない。 誘われるままについて来て、しかし見慣れた麻帆良の風景に思う事とてなく、気になっていた先の言葉の真意を尋ね掛けたのだ。

「今回の事で、僕は力不足を痛感しました。
 ですから、まずあの人に弟子入りしようと思うんです」

 首を傾げた彼女に、アソコです、とネギは指差した。
 その指し示す先、前方の木立の合間から見えてきたのは、洒落た感じの一棟のログハウス。
 見覚えの無いソコに、明日菜の疑問は更に深まる。

「すいませ〜ん」

 そんな連れに構わず、ネギはドアノッカーを叩いた。

 しかし、中からは何の反応も無い。
 彼らの知る由も無い事だが、この時、この家の住人は全員隔絶された空間の中に居たのである。 訪問者に応えられるモノは、誰一人としてそこに居なかったのだ。

「留守なんじゃない?
 って言うか、あんた、ちゃんとアポ取ってから来たんでしょうね?」

「あ、そう言えば…」

 そんな返事に、明日菜は舌打ちをした。
 どうにもこの少年は、頭の出来の割に妙に抜けている所が多い。 経験値の不足と言ってしまえばそれまでだ。 何せ、数えで10歳の子供なのである。

 もう、と言って、小さく彼の頭を小突く。

「あんた、もう少しその抜けたトコをなんとかしなさいよ…
 で、ここ、誰の家なの?」

「エヴァンジェリンさんです」

 端的に返された言葉に、一瞬 呆気に取られる。

「エヴァちゃん?
 って、あんた何考えてんの? エヴァちゃんは、まだあんたの血、諦めてないのよ!?

 二人の間の因縁や関係を、その最初から知ってしまっている彼女には、どうにも愚行にしか感じられない。

「大丈夫ですよ。 エヴァンジェリンさんは悪い人じゃありません。
 それに…」

 苦笑一転、彼は京都の夜に見せたあの大人びた眼差しを明日菜へ向けた。

「僕には力が必要なんです。
 大切なものを守る為の力が」

 そう言うと、すぐに視線を遠い空の彼方へとずらす。

 麻帆良に帰ってからカモに聞かされた夕映の話は、ネギに強い危機感と使命感とを与えた。
 自分の不甲斐なさが、知らない内に起きた事とは言え、守るべき生徒を死の淵に追い遣っていたのだ。 いくら無事に済んだと言っても、責任感の強い彼がどれほどの衝撃を受けたかは言うまでもない。

「あの横島さんと言う人の様に、エヴァンジェリンさんにすら頼られるほどの、そんな高みに僕は昇りたい」

 聞かされた自分への石化の解除や、ほとんど蘇生と言っていい夕映に注がれたと言う秘儀。
 横島が行ったそれらは、ネギのトラウマにも光明を与えている。
 あの村の住人たちの現状を、聞かされずとも彼は推測出来てしまっているから。 だから尚更、ネギは自身の無力を許せないのだ。

 そして、それ故に詳しく知らない横島と言う人間への評価は、高過ぎるほどに高かった。

「ぇ゛…」

 彼の言葉に、明日菜の表情は何とも言えないカタチを作った。

 ネギとは逆に、彼女の横島への評価は高くない。
 詳しくないが故に、凄い事をやったのだと言う認識がまるで無かった。 またネギの看病をしていたから、夕映の件は見てすら居ない。
 よって、見た目からの印象しか持ち合わせていないのだから、それも当然だろう。

 明日菜のそんな様子に気付かぬまま、浮かされたような言葉が続く。

「今度。 今度、もしも何かあった時…
 その時には、このかさんやアスナさん、それに3−Aの皆さんたちを守れる、そんな僕でありたいんです」

 滔々と告げるなり、真っ直ぐに視線を向けてきた少年の決意に、明日菜は知らず胸を高鳴らせた。

 ただ責任を背負込もうとするだけではなく、自身の望みとして掴もうとする気概。 そんな複雑なモノをも感じ取って。

「ネギ、あんた…」

 ネギにとって京都での一件は、日本で最初の大きな挫折だった筈だ。
 自身が何か出来たとは言い難い。 ただ翻弄されて流されてる内に、自身と関係なく解決してしまった、そんな事件。
 少なくとも彼の認識ではそうなのだろう。 実際にネギが果した役割は、けして小さくなぞないのだが。

 手も足も出ない相手が居たからと言う事もあって、ソレを自身の力量の不足と考えた彼は、足りない実力を補う術を求めた。 その一つが、魔法の技量の更なる高上。
 横島の思考同様に、自分の知る最も強い魔法使いにこそソレが出来ると考えたのだ。

「そっか…」

 明日菜は、それを筋道立てて理解した訳ではない。
 それでも、感覚的に彼の思いを捉えて何処かで納得がいったのだ。

 そんな彼女に気付かぬまま、ネギは明日菜へと笑い掛ける。

「やっぱりお留守みたいです。
 先に別件を済ませてから、お昼過ぎに連絡を取り直しましょう」

 何故か既視感を感じるその笑顔に、彼女は赤らむ自分の顔を抑え切れなかった。

 

 

 

 昼食を済ませての、まだ高い日が降り注ぐ中。
 気持ちよい風が吹き抜ける天蓋の下で、再び黒板を前にエヴァは薄い胸を張った。

「さて仮契約も済ませた事だし、まずお前たちにコレを渡しておこう」

 そう言って取り出したのは、材質不明な短く細い棒。 尖端に取り付けられている星や月のオブジェが、どうにもチープさを感じさせる。

「なんですか、コレは?」

 渡されたソレを手に、夕映が聞き返す。
 木乃香や横島の視線も、答を求めてエヴァへと向かった。

「それは初心者用の魔法の杖だ」

「魔法の杖?」

「魔法を行使するにあたって、基本的には発動体と呼ばれるアイテムが必要になる。
 まぁ、補助具と考えて構わん。 その代表的な物が、魔法の杖、な訳だ。 ネギのぼうやも、いつも持ち歩いているだろう?」

 あの少年をよく知る少女たちは、あぁアレが、と思い当たった。

「しかし、ネギ先生の杖はもっとしっかりとした作りの物だったようですが?」

「当たり前だ。 あんななりでもあいつは、取り敢えずは認められた魔法使いだぞ。 見習い以前のお前らと一緒の訳が無かろうが」

 なるほど、と納得して夕映は引き下がった。

「話を続けるぞ。
 魔法とは、自身の内に貯えた魔力を使って、世界に遍く存在する精霊たちを駆使し、常ならぬ効果を得る為の手段だ。
 魔法を使う為には、自身の中の魔力の認識と、自分の意志を精霊に伝える言葉、それを補助する道具とが必要になる。 それらが揃えば基本的には誰にでも扱える技術だが、どれ程の事が出来るかは本人の資質と研鑽次第で変わる」

 まぁ、レベルが上がれば後ろ2つは必ずしも必要じゃないがな、とエヴァは笑った。

 魔力と意志が有れば、システムは満たせるのだ。 きちんと使えるかはともかく。 エヴァにしても無詠唱でとなると、出来る幅は至極狭い。

「道具は杖やとして、言葉が呪文やの?」

「そうだ。
 基本的には古い言葉……良く使われるのは、ラテン語や古典ギリシャ語なんかだな。 普段使われない、存在年数の長い言葉を、韻を踏んで詠唱する事で成される。
 って、ソコ、聞いてるのかっ!?

 ビシっと指を差されて、横島は頭を掻いた。

「んな事言われたってなぁ…」

「って言うか、俺っちの用はもう済んだんじゃないんスか?」

 彼の横に居たカモも、肘を突いて寝転がりながら不貞腐れる。

「お前みたいなのに勝手にうろつかれるのも迷惑だからな。 大人しく出られる様になるのを待っていろ。
 暇なら、チャチャゼロに相手をさせてもいいぞ。 まぁ、その時は、キツネ狩りならぬオコジョ狩りで暇を潰す事になるがな」

 その言葉に、彼女の足元に居たチャチャゼロが、ドキドキする様な怪しい光沢を湛えたナイフをすらりと抜く。 それ以上に、彼女の目が輝いていた、怪しい期待で。

 その動きに、カモは身も蓋もなく土下座して謝った。

「で、横島。
 貴様は、ここで魔法使いの陣営として存在しているんだ。 少しは、こっちの事も覚えんでどうする」

「つーても、俺、勉強とか嫌いだしなぁ…」

 まるでやる気無さそうに佇む彼に、エヴァは溜め息を吐く。

「はぁ…
 まぁ、いい。 とにかく今は大人しく話を聞いていろ。
 で、どこまで話したか」

「呪文に関して触れた所です」

 そうか、と茶々丸に頷いて彼女は言葉を続けた。

「でだ、呪文なんだが、基本的に2つの部分に別れている。
 1つは意志を伝える為のベース部分。 韻を踏む定型詩を基本とするが、アレンジ出来ない事もない。 とは言え、ほとんどの魔法使いには難し過ぎる。 なにより、文言に蓄積された時間は馬鹿に出来ん」

 魔法をカタチにするのは精霊なのだ。 繰り返されたソレに対するレスポンスやパフォーマンスは、当然些細ではない違いを産む事になる。

「そしてもう1つ。
 呪唱を開始する際に唱える始動キーと呼ばれるものだ」

「始動キー、ですか?」

「あぁ。
 これは詠唱に当って、自身の魔力を汲み出し意識を切り替える為のもので、普段使わない言葉の羅列であれば、極端な話 意味が有ろうと無かろうと何でもいい。 認められた魔法使いは、それぞれ独自のソレを持っている。 ぼうやので言えば、『ラス・テル・マ・スキル・マギステル』だったか。
 まぁ、お前らもそうだが、練習の際には初心者用に用意された共通キー『プラクテ・ビギ・ナル』を使う事になる。 綾瀬夕映、お前なら判ってるかも知れないが、文字通りでこのキー自体は意味がある」

「ラテン語ですよね? 何となく判る様な気がします」

 英語で言うならプラクティス・ビギナーとかそう言う事でしょう、と呟いた。

「この始動キーだが、やはり初歩的な呪文であれば省略する事も可能だ。 尤もデメリットもあって、威力などが多少落ちることになる」

 そう言った後、黒板にキキっと白墨を滑らせる。
 例として描かれた魔法の矢を、それぞれキーの有る無しで長さを変える事で違いを示す。

「と言っても、何パーセントと行った程度だから、初歩的な物では大した差にはならん。 篭める魔力を増やせるようになれば、余計にな」

 ふむふむ、と興味深そうに頷く夕映と木乃香に、エヴァは少しだけ満足そうに笑った。

「まぁ、そんな事はおいおい実感させるとして。
 まず、魔法を使う為の感覚を覚えて貰う。 ここで、さっきお前たちとした契約が生きて来る」

 そう言われて、二人は自身のコピーカードを手に取った。

 横島とのソレと比べて、写真の様にリアルな自身の姿に照れは有る。 だが、念願のソレであった木乃香は、カードを見る度にほくほく顔になっていた。

 対して、女性同士のキスと言う事で、普段なら抵抗が大きかっただろう夕映はと言えば。
 直前の横島との契約が心理的ダメージ大 だった為だろう。 2度目のソレの時にはもうどうでもよくなっていたらしく、これと言った反応は見せていない。

「もう一度繰り返すが、規模の多寡は有るが本契約であれ仮契約であれ、行う事で従者にはいくつかの特典が齎される。
 1つはそのカードを通してのマスターとのコンタクト。 ソレを経由した念話と、同じく従者の召喚だ。 範囲の限定は有るものの、かなり便利なのは事実。
 もう1つは、そのカードをキーとした、アーティファクトの召喚。 さっき試したように、従者の特性に合わせたソレは大きな利を産む。 …普通は、な」

 木乃香の扇と衣装一式。 同じく夕映の辞典と衣装一式。
 それぞれを、カモは上機嫌で説明してくれた。 こっちはマトモな契約になった為、懐が潤ったのだから、その時の浮かれていたカレの様子は当然と言えよう。

「そしてもう1つ。 カードを通して従者に対し、魔力の供給が行えるようになる事。
 送られた魔力は、基本的に従者の体力などの向上に使われる」

「俺の場合。 力が抜けるけどな」

 ぼそっと入れられた呟きに、エヴァは横島をまじまじと見詰めた。

「どう言う事だ?」

「アレやられると、霊気が乱れて力が萎えんだよな」

 繰り返しヤラれた事で、横島も自身に何が起きたのかを朧げながら理解してきていた。

 こちらの魔力同様に、横島の世界では誰でも多かれ少なかれ霊力を持っている。 やはり魔法と同様で、霊能が無い一般人には有っても有効利用出来るものではないが。 有るのと使えるのは別と言う事だ。

 つまる所、普段から横島は霊力で微妙にブーストされているのだ。 そしてそれは、彼の霊力源である煩悩に塗れた時にこそ、最も強化される。
 魔力供給が行われると、そんな霊力の働いてるソコへ、目的が同じで異なるチカラが注ぎ込まれる事になるのだろう。 結果として双方が干渉し合い、普段からなされている効果自体も打ち消しているのだと、横島はそう受け取っていた。

「ふむ、つもり貴様はその霊力とやらで、普段から魔力供給されている様な状態になっていると言う事か」

「たぶん、だけどな」

 確かに、霊能に目覚める前から常識外れの身体能力を持っていた。
 だが、それも煩悩に左右されていた所を見ると、無自覚な利用は なされていたのだろう。 美神の下で、様々な事件に遭遇し様々なカタチの霊能に触れる内に、それが表面化し強化されてきたのだと思われる。
 断言出来ないのは、単に明確な知識が横島には無いからだ。

「とすると、魔力とソレは相性が悪い、ないし反発もしくは競合する関係に有ると言う事か…
 ふむ、なかなかに興味深い」

 

 

 

 【お姉ちゃーん、続きどこー?】

 


 ぽすとすくりぷつ

 今回の魔法その他に対する垂れ流しは、言うまでもなく本作内のみでの解釈です。
 私の知る範疇で、それなりに整合性を取っているつもりです。 …が、何分、連載中の原作ですから、後から色々と設定が追加される事は避けられません。 結果として矛盾が生じたりするかも知れないので、その辺はご容赦下さいね(__)
 勿論、単に私の思慮足らずで、と言う場合も有りますんで、そん時もね(^^;


 
 

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