「遅い」

 這う這うの体で逃げ回って、漸く辿り着いたエヴァのログハウス。
 扉を叩けば、珍しく自ら出迎えた彼女がそう言って、横島の顔に拳を突き入れた。

「なにすんじゃ、こらっ

「なに、じゃないわ。 お前たちをいつ呼んだと思っている」

 壁に掛けられた時計を見れば、もう既に10時を周っていた。

 あの連中とは、良くも悪くも互いに慣れてしまっていた。
 だから、最近では完全に振り切るのに1時間以上掛かるのだ。 他ならぬ横島自身が、彼らの……と言うか武闘派に属する面々を、鍛え上げたカタチになってしまっているからである。 逃げられるまでの実戦訓練に加え、その後も彼らは仲間内での鍛錬を続けているのだ。 その成果を次の機会で発揮し、また逃げられて以下略、を繰り返し続ければ、それは強くなろうと言うもの。

 夕映も木乃香も笑顔が固まっているが、何せ1時間近い逃避行の後だけに仕方なかろう。
 最初こそ はしゃぐ余裕もあったものの、すぐに当初の愛衣同様 すっかり体力をすり減らし、後は言うまでもない状況だったのだ。

 逆にそれでも元気一杯の横島は、一人自己弁護に掛かった。

「しゃあないやんか〜 あいつら、めっちゃしつこいんやから〜
 俺かて、イヤなんじゃっっ」

 何を言ってるんだこいつは、とばかりの視線を横島へと向ける。
 が、すぐに気を取り直したのだろう。

「まぁいい、入れ。
 話は中で、だ」

 ずずっと鼻をすすって部屋の中へと戻って行く彼女に、ちょっと顔を見合わせて、3人は従う様に扉を潜った。

 

 

 


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GS美神×ネギま! CrossOver Story
  ざ・がーどまん
          その38   
 
逢川 桐至  


 

 

 

「何してんのよ、ネギ」

「あ、アスナさん、おはようございます」

 挨拶を受け、明日菜は自分のベッドから、彼の部屋と化したロフトへと、ひょいっと飛び移る。

 そこで、ふと違和感を感じた。
 ちょっと考えて、ソレがなんなのかすぐに気が付く。

「あんた、あのエロオコジョは?」

 いつも付かず離れず側にいる、白くて小憎らしいアレの姿が無かったのだ。

「そう言えば、どうしたんだろう? いつもなら、もう帰って来てる頃なんだけど…」

「まさか、またどっかで下着ドロでもしてんじゃ…」

「さすがにそれは無いんじゃないかと思いますけど」

 苦笑混じりに弁護の声を入れながら、それでも彼は振り向かず何かに集中している。
 ネギの後ろから近付いて、明日菜は彼の手元を覗き込んだ。 ついでに、側においてあったチョコを摘まみ食いしながら。

「それって?」

「長さんから貰った手掛かりです」

 あぁ、と納得する。
 旅行帰りに、それは大事そうに抱えてきたのだ。

 彼女に見えるように、ネギはそれを拡げて説明を始める。
 世界樹から図書館島に掛けての地下断面図。 暗号混じりとは言え、重要な手掛かりだ。 もう一つの手掛かりであるアルと言う人も、木乃香に話を聞いた限りでは図書館島の地下に居るらしい。

 そうと知るだけに、明日菜も彼の興奮を理解出来た。

「これも含めて、今回の事では色々やらなきゃいけない事が出来ちゃいました。
 勿論、先生の仕事も大事ですから、そっちも手を抜いたり出来ませんけど」

「当たり前でしょ、あんたはウチの先生なんだから」

「ええ。
 だから、見てて下さい、アスナさん。 僕、頑張りますから」

 そう言って振り返ると、親指を上げてウインク一つ。

 明日菜は、さっきまで見ていた夢に重なるその姿に、一瞬思わず見惚れて赤くなった。

 

 

 

「な、なんですか、ここはっ?!
「ほわ〜〜〜っ」

 一瞬にして切り替わった視界に、初めての二人は思わず声を上げた。
 2度目の横島にしたってそうなのだ。

「いや、やっぱ魔法って なんつーかすげぇよなぁ」

「えぇ…」

 苦笑混じりの言葉に、夕映はただ頷いた。 大きな瞳に歓喜を湛えて。
 ここまで大規模な事が出来る世界なのかと、魔法と言うモノへの好奇心が更に刺激されたのだろう。 さっきまでの疲れた様子が一気に吹き飛んでいる。

 そんな彼らの様子に、魔法より理不尽な真似が出来るくせに何を言ってる、とエヴァは口の中で呟いた。

「とにかくさっさと奥へ行くぞ」

 そう言うと、彼女はどう見ても心許ない橋を、ずんずんと歩いて行った。
 その後ろ姿に、夕映の眉が顰められる。 木乃香もさすがに不安そうな顔を浮かべた。

「アレを渡るですか?」

「他に道なんか無いしなぁ…」

 横島が言うまでもなく、この小さな円形のスペースから他へ向かう道なぞそれ以外に無い。
 尤も、手摺りも無いほんの僅かな幅のこの通路でも、彼の感覚では安全な道である。 妙神山へ続く道程を思えば、転がる事すら出来るほどの幅があるのだから充分に過ぎるのだ。

 残念ながらそこまで極端な認識を持たない二人は、横島に手を引かれて恐る恐る渡るしかなかった。

「はぁ… 恐やったぁ」

「え、えぇ。 少し、心臓に来る道、でした」

 図書館島で高い所に慣れているとは言え、限度と言うものがある。
 それにあそこは暗くて、本棚の間の谷間は途中から下が見えなくなるのだ。 その為、暗いのさえ大丈夫ならそれほどでもなかった。
 しかしこの道は、例えるなら高層ビルと高層ビルとの間に渡された1枚の板の様な物でしかない。 心臓が止まりかねない景観が丸見えなのである。 しかも、高さに比した程ではないが、少なからず風が吹いていた。
 まだ常識寄りの世界の住人にはキツかろう。

「まったく… この程度でおたついてどうする」

「まぁまぁ、エヴァちゃん。 この娘らはちょっと前まで一般人だったんだからさぁ…」

「フン。 まぁいい」

 ふいっと、顔を逸らす。
 二人が落ち着くまで待ってくれると言う事なのだろう。

「しかし、ここ使うつもりだったから泊りの仕度っつってたのか…」

「どう言う、事ですか?」

 横島の言葉に、夕映だけでなく木乃香も不思議そうな顔を向ける。

「ここは、私の別荘として用意した物だ。 まだ、お前らには判らんだろうが、外よりも魔力の濃度が高い。 ひよっこのお前らを鍛えるに打って付けと言う事だ。
 加えて、ここに入ると まる24時間は外に出られん」
「ソレはどう言う事ですか?!

 まさか拉致監禁?、などと夕映の口から危険な言葉が飛び出す。

「最後まで聞かんかバカ者が。
 ここで24時間過ごしても、外では1時間しか経たん。 そう言う風に作ってあるんだ。
 その事も、学生をしているお前らに訓練を施すのに向いているからな。 それで、わざわざここを使う事にした訳だ」

「ほえ〜 魔法ってほんまわやくちゃやなぁ…」

 唖然とした声で木乃香がそう曰う。

「取り敢えず、貴様らには部屋を用意した。 案内させるから、荷物を置いたらここへ戻って来い。
 お前もだぞ、横島忠夫」

 そう言うとエヴァは、茶々丸の姉にあたる人形たちを呼び出した。

 

 

 

「あぁ、高音君」

「はい?」

 買い物ついでの散歩の途中。 急に呼び止められて、彼女は振り返った。

「ガンドルフィーニ先生。 こんにちは、何か御用ですか?」

「ああ。
 ちょっといいかね?」

「えぇ、構いませんが…」

 二人は道の端へと寄って、木陰へと入る。 暑い訳ではないが、魔法絡みの話になるとなれば、人目に付かない方がいい。
 言い辛そうにしながら、それでも彼は言葉をすぐに口を開いた。

「横島君が今 何処に居るか、君は知らないかな?」

「彼が、ですか?
 昨日戻って来て別れてから、私は顔を合わせていないんで…」

「そうか…」

 当てが外れたとばかりに肩を落とす。
 そんなガンドルフィーニの様子を、訝しげに見詰めて彼女は問い返した。

「何か、横島さんに御用ですか?」

「うん。 向こうでの事を、きちんと彼からも聞いておきたいと思ってね。
 ところが呼び出そうにも、携帯は繋がらないし部屋に行ってもいなくてね。 緊急の用じゃないから、まぁいいんだが、やはり気になってね」

 そう言いながらも実際の所、彼一人ではなく複数の魔法先生たちが、直接話を聞こうと集まっていた。
 前日から手配しておかなかったのは彼らのミスである。 だが、何せ近右衛門は過労で臥せってしまっていたし、高音たちからのレポートが届いたのは夜も更けた頃。 その上、そのレポートのとんでもなさに真っ先に気付いたガンドルフィーニからして、それを読んだのが今朝になってからだったのだ。

 先に、彼を中の人間として受け入れると言う決定が下っていたから、それ以後 監視の目が離れていたのも大きい。

 ついでに言うと、高音たちに呼び出させなかったのは、彼女たちを抜きにして話を聞く為だ。
 二人はなんだかんだで横島を受け入れているし、何かと彼のフォローに走る事に慣れ過ぎている。 尋問と言う訳ではないが、彼の素の声を聞く場には、向いていないと言わざるを得ない。

 そんな思惑を隠して、ガンドルフィーニは苦笑いを浮かべた。

「彼からは、レポートを提出して貰ってる訳でもないしね」

 そんな言葉に、高音は人差し指を顎に当てて考え込む。
 確かに一昨日の晩の出来事は、目の前で見た彼女にしても信じ難いと言っていい。 横島の非常識さに、麻痺しかかっている高音ですらそうなのだ。
 魔法先生たちが、本人からも話を訊きたいと言うのも頷ける。

「ちょっと待ってて頂けますか? 一応、メイにも確認してみますので」

「あぁ、お願いするよ」

 頷く彼を横目に、人払いの魔法を仕掛けると、愛衣のマスターカードを取り出した。

 横島の前に妹分を優先したのは、居る場所次第で届かない恐れが高いから。
 愛衣か、さもなくばエヴァや木乃香が側にいるなら、あの謎のシステムの所為で届くかも知れない。 が、無い物ねだりをしても仕方なかろう。
 それに何より、愛衣とのソレでなら充分念話の圏内に居るのだ。

『メイ?』

『…お待たせしました。 お姉様、おはようございます』

 起きていたのだろう彼女からの返事は、そう待たされる事なく返って来た。
 受信はともかく、カードを額に当てないと送信は出来ないのだ。 人目を避けなければならない魔法関係の事。 横島の様にバンダナでカードを常備しているなら別だが、そうでない以上 多少のインターバルは仕方のない事だった。

『えぇ、おはよう。
 ちょっと訊きたい事があるんだけど、いいかしら?』

『はい、なんですか?』

 普段から私用に使う事が少ないだけに、愛衣の反応は何処か緊張を伴っていた。
 それに気付いて、内心苦笑しつつ高音は言葉を続ける。

『大した事じゃないんだけど…
 あなた、横島さんが今何処に居るか知らない?』

『はい? 横島さんですか?
 横島さんなら、このかお姉様たちとエヴァンジェリンさんの所に居る筈、だと思いますけど…』

「はい?」

 あっさりと出てきた答に、思わず声が口に出た。

「ど、どうしたのかね?」

「その、近衛さん……学園長先生のお孫さんと、エヴァンジェリンさんの所に行ったらしいです」

 想定外の状況に、彼の額に皺が走った。

 

 

 

「面倒だが、一度この私が請け負った以上、貴様らには最低でも一流の魔法使いになって貰う。
 いいな?」

 品のいい銀縁眼鏡を掛けたエヴァが、黒板を前にそう言い放つ。

 ここは、本塔の最上階の開けた場所の横にある、休憩所の様な屋根のある空間。 呼ばれてきた3人は、彼女を見詰めて椅子に着いていた。

「なぁ?」

「なんだ?」

「それはいいんだが、なんで俺までここに居るんだ?」

 所在なげに座っていた横島が尋ねる。

「ふん、何かと思えばそんな事か。
 貴様は何かと便利だからな。 それに、下僕が主に付き従うのは当然の事だろう?」

「承知した覚えは無いんだがなぁ…」

 なにせ、あの主従契約は無理矢理させられた……と言うか、されたモノなのだ。 ちょっと気持ち良かったのも事実だが、だからと言って従おうなどとも思えない。

 …のだが、身に付いた丁稚根性故に、なんとなく逆らえない横島だった。

 と、そこへもう一人の人影。

「マスター、ただいま戻りました」

「うむ。 で、首尾は?」

「はい、この通り」

 そう言って茶々丸が差し出した籠の中には、見覚えのある白い小動物。

「一体、なんで俺っちが?」

 そう、ネギのペット、カモである。

「あら、カモくんやない、どぅしたん?」

「お、このか姉さんじゃないすか。
 どうもこうも、ないんスよ。 俺っちが縄張りの見回りをしてたら、あっちの茶々丸ってロボにいきなり捕まえられてこの有様。 姉さんも何とか言ってやって下さいよ」

 籠の中で、器用にあぐらをかいて、彼は木乃香へと声高に訴えた。

 尤も…

「用が済んだら帰してやる。
 それとも何か? 私の言葉には従えないとでも言うつもりか、小動物?」

「ひっ…
 い、いえ、そ、そんなめっそうもねぇ」

 凄まれて、すぐに平伏に移ったが。

「ふん、まぁいいだろう。
 さて、話が途中だったな…」

 そう言って、彼女は黒板の前に戻った。

「本来、魔法使いの修行と言うものは時間が掛かる。
 それは当然だな。 元々きちんと認識される事の少ない魔力と言うモノを、しっかり感じ取れるようにならなければならないのだ。 時間が掛らない筈が無い。
 実際、これだけ濃度の高いここに居ても、お前たちには判っていないだろう?」

 そう問い掛けると、木乃香も夕映も、揃って首を縦に振る。

「俺も、アレ掛けないと見えねぇもんなぁ」

 横島もそう頷いた。
 全く感じない訳ではないが、それはあくまでなんとなく、でしかないのだ。

「そう言えば、ソレがあったな。
 よし、ちょっと出してみろ」

「へいへい」

 逆らっても仕方ないと、横島はカードを取り出して「アデアット」と口にした。
 ポンっと弾ける様にして、アーティファクトが光の中から現れる。

 その瞬間、空気が凍った。

 ソレを見た事が無い木乃香や夕映だけではない。
 見知っていた筈のエヴァや茶々丸、カモ。
 そして誰ならぬ、持ち主である横島も、だ。

「…おい」

 暫しの痛い沈黙の後、エヴァが口を開いた。

「なんだ、ソレは?」

「いや、俺になんだと言われてもなぁ…」

 横島とて、自身、あっけに取られているのだ。
 京都に行く前、最後に取り出したのはエヴァの目の前での事。 あの時はまだ、彼のアーティファクトはヒゲメガネのカタチをしていた。
 少なくとも、こんな奇天烈なモノでは無かった筈だ。

「なんなんですか、ソレは?」

「なんや、どぉゆぅたらええねんか判らんおもちゃやなぁ」

 基本はヒゲメガネのままだ。

 但し、そのフレームにはどこかの練金な変態の様な、蝶を模したマスクが張り付いている。 そしてその上部からは、まごう事なき光り輝くハゲヅラが繋がっていた。

「な、なんつーか、さすが横島の兄さんだぜ…
 俺っちの予想の斜め上どころか、常識の次元の壁もぶっちぎってやがる」

 カモすらも、投げ遣りにそう呟いた。
 横島ときたら、ただの一度もカレの予想の範疇に留まっていた事が無いのだ。 どこかやさぐれた気持ちになったとしても、いっそ当然かも知れない。

「あー、なんだ。 取り敢えず、使えるか試せ」

「そう、だな…」

 のろのろと、ソレを被る。
 馬鹿馬鹿しいまでに変質者にしか見えない姿が、そこには在った。

「む… あれ…」

「どうした?」

 被った後も呆然とそれを弄っていた横島が、突然呟き出した。 さすがに気になってエヴァが恐る恐る尋ねる。
 その問い掛けを気に留めず、彼はなにやら作り物の鼻の先をポチポチと押す。

「おぉ、そーゆー事か

「どうした? 答えろ、横島」

 じれて再び聞き返す彼女に、横島は被っていたソレを脱ぐとホイっと差し出す。
 訝しげに見詰め返してくるエヴァへ、彼は頼み事を口にした。

「一応、使えてるみたいなんだが、よく判らん事になってるんだ。 ちょっと、エヴァちゃんが見てみてくんないか?」

「な、なに?
 まさか、私にそれを被れと言うのか?」

「ん? そうだけど、なんかマズイんか?」

 専門家に確認して貰おうと、彼はそう思ったに過ぎない。

 だが、求められた側からすると、まるで何かのバツゲームだ。
 以前、ヒゲメガネだった時のコレを着けるのを愛衣が嫌がっていたが、今のコレはあの時以上にアレである。

「エヴァちゃんでもないと、判んないと思うんだよ」

「い、いや、しかしだな…」

 更に突き付けられて、思わず腰が引ける。
 そんな彼女を助けたのは、彼女の忠実なる従者だった。

「でしたら、代わりに私が」

 そう言って、横から手を伸ばして取り上げると、茶々丸はソレをおもむろに被ったのだ。

「これは…」

「どうした、茶々丸?」

 押し付けてしまった後ろめたさからか、エヴァの声には紛れもない心配が篭っている。

「いえ、現在コレを通して見られる視界は、サーモグラフのものだと思われます」

「は? なんだと?」

「んじゃ、ちょっとソレの鼻を押してみてくんないか?」

 エヴァの疑問に被せるように、横島が指示を出す。
 茶々丸の白い指が、自らの顔の前のソレに伸ばされた。

「これは…」

 そう言って、ソレを外したり被り直したりを繰り返す。

「どうやらこの数字は、紫外線濃度の様です」

「おい、横島。 どう言う事だっ!?

 そう言って、彼の襟首を引き寄せた。

「いやアレさぁ… なんか、見れるの1種類じゃないっぽいんだわ」

 端的に言えば、そう言う事だった。

 

 

 

 茶々丸が、その後 何度か試しつつ、自身の感知機器と比べて判明したのは以下の通り。

 このアーティファクトの現在の機能は、合計4つ。

 一つは、魔力認知。
 基本的には色覚で強度が判ると言う、当初から判明していた機能だ。

 一つは、通常視界。
 1〜5倍程度に倍率変更が出来る、オペラグラス程度の望遠機能付。

 一つは、温度感知。
 よくあるサーモグラフの様に、青から赤で表面温度が表示される。

 残る一つは、紫外線測定。
 数字で濃度が判り易く表示され、夏場の肌のお手入れもバッチリだ。

「使えるのか使えないのか、微妙な所だな…」

 黒板に書き出したソレを眺めて、書き留めた本人であるエヴァが呆れた様な声を出した。
 便利と言えない事もないが、使う為には まずアレを被らねばならないのだ。 心理的・外聞的デメリットの方が大き過ぎる。 少なくとも、隠密性や秘匿性は皆無と言えよう。 …ついでに言えば、人間性が疑われる事は間違いあるまい。

 なのに、そこまでして得られる情報としては、判る事が少々しょぼすぎる。

「ちょっと思ったんスけど…」

「なんだ、小動物?」

「小… いや、ともかく…」

 ジロリと目を向けられて、思わず尻尾を丸める。

「その、横島の兄さんのマスターなんスけど。
 真祖の姐さんやそっちのこのか姉さん、それに最初の二人を合わせて今ンとこ4人いやす」

「そーみたいやなぁ」

「…? それがどうしたんだ?」

 木乃香が頷き、横島が言葉の続きを促す。

「もしかして、マスターの数に合わせて、機能が増えていってるんじゃ…
 外見も、元のにオプションが2つ付いたと言えなくもねぇし」

 その発言に、周囲の目が茶々丸の手にしたアーティファクトへと集まった。

「それは…」

 夕映は、なるほど、と呟いた。
 理に照らせば頷けない事も無い。 魔法の知識がほとんど無い故に、横島の異質さも魔法の限界も知らないから尚更だ。

「けど、最初は魔力しか見れなかったぞ?」

「いや、あン時は今みたいに、鼻で切り替えたりとかしてなかったじゃないっスか」

「む…」

 確かに、今回改めて被ってみて、何となく触っていたら違和感を感じたので、それで初めて気付いた事実なのだ。 前の時にも2種類有った可能性は、否定出来ない。

「ふん。 なら話は簡単じゃないか」

 鼻で笑って立ち上がった彼女に、木乃香が首を傾げる。

「そーなん、エヴァちゃん?」

「私の事は、尊敬の念を篭めてマスターと呼べ。
 それはともかく、その推測が正しいかなぞ、実際に確認してみればいい事だ」

「なるほど道理ですね…
 って、まさか?!

 納得し掛けて、背筋を走った嫌な予感に、夕映もまた腰を浮かせた。

「そう。
 当の本人がここに居て、しかも仮契約の魔法陣を描けるオコジョと、未契約の魔法使い志望者が居るんだ。 実際に契約して試せば簡単だろう?」

「ちょっ、本気ですか…」

 ニヤリと笑みを向けられて、ジリジリと後退る。

「そもそも、茶々丸にその小動物を捕獲させたのは、近衛木乃香、綾瀬夕映、お前ら二人と私の間で契約を結ぶ為だったんだしな。
 なに、一人とするも二人とするも、対して違いはあるまい?」

 魔力の濃密なこの場で、更に直接魔力を送りつける事で、無理矢理に才能を開花させるつもりだったのだ、彼女は。 時間を掛けての地味な修練を、エヴァ自身はやった事が無いと言うのも、理由として有ると思われるが。

 ちなみに何故 自身でやらないかと言えば、夕映はともかく木乃香に吸血を仕掛けた場合、色々と問題が起き得るからだ。
 彼女の弟子入りは、詠春に直接受け入れを頼まれての事。 とは言え、吸血と言う方法では、近右衛門たちとの間に要らぬトラブルを抱え込みかねない。 言うまでもなく、彼は爺馬鹿なのだ。
 また、刹那もつまらない動きを見せるだろう。

「だ、だ、だとしても、なぜ、わたしがこんなひとときすなんか…」

「貴様にとって、悪くは無い話だぞ。
 何せこの男と仮契約しておけば、いざと言う時 連絡を取れる相手が一気に増えるからな。 何故かは判らんが、この男のカードは契約主同士すらをも繋げる特性がある。
 この男に、私、近衛木乃香、それに旅行の時にいたあの二人の魔法生徒とも、それだけで念話が繋がる様になるんだ。
 安全を買うと言う意味では、これは優れた手と言えよう」

「あぁ…
 それは、そーやな」

 意地悪く笑ってのエヴァの指摘に、木乃香がポンと手を打ち鳴らす。
 ついさっき、用意された部屋と今居る屋上との行き帰りの間に、夕映の弟子入りに関する事情を本人の口から聞いたばかりなのだ。 そう言う話なら、消極的にでも反対する彼女ではあるまい。

「そやったらゆえの為にも邪魔したらかんなぁ」

 そう言って、木乃香は成り行きを見守る事にした。

「で、ででで、ですが…」

 助けの手が無くなってがくりと膝を突きつつも、それでも尚 真っ赤になって嫌がる夕映の横の方。
 もう一方の当事者である横島は、そこで茶々丸に取り押さえられていた。

「ちゃ、茶々丸ちゃん? こ、これはどう言う事かな?」

「横島さんが、この場から逃亡する確率が高いと判断しました」

 後ろから羽交い締めにして、淡々とそう答える。

「幼女相手じゃ当たり前やろがっ 俺はロリちゃうわ〜〜っっ!!

 話し合いではどうにもならぬと、横島は暴れ出した。
 だが先手を取られた事もあり、またその身に秘めた力を遺憾なく発揮され、彼女は横島の逃亡を許さない。 黙したまま、茶々丸は彼を完全に押え込んでみせた。
 まぁ、ガイノイドとは言え女の子に抱き着かれている、と言う状態に、横島が抗えなかっただけなのもあるだろう。

 そんな彼の言葉に、もう一方の被験者が反応した。

「って、誰が幼女ですかっっ!?

「10年後ならまだしも、今の夕映ちゃんじゃどう見たって小学生がいいトコだろうがっ
 俺の好みはもっとナイスバディのお姉ちゃんじゃっつーの」

「人の体におかしな事した癖に、そう言う事を言うですかっっっ!!!?

 喧々囂々と叫び合う二人を他所に、エヴァはカモを籠から取り出す。

「と言う事だ」

「へいへいさー」

 しゅたっと敬礼するなりカモは作業に取り掛かる。
 満足気に頷くと、エヴァは口喧嘩に気を取られていた夕映を押え込みに掛かった。

「ちょ、エヴァさん、何を?!

「時間はたっぷり有るが、けして余ってる訳じゃないからな。
 茶々丸

「はい」

「ちょ、茶々丸ちゃん、タンマ、タンマ〜っっ」

 指示を受けて、横島を抱えたまま彼女もエヴァたちへとにじり寄っていく。

 高音たちの例から言えば、ほっぺでも構わない気もする。 しかし、それを知るカモにとって、これは3度目の正直だった。
 京都でのネギとのどかの間の契約は、問題無く出来たのだ。 まともにやってそれでもまた今回もダメだったのなら、本格的に横島の所為と言い切れるだろう。

「ちょ、助けて下さい、このか〜」

「そ、そだ。 木乃香ちゃん、へるぷみ〜」

「二人共、頑張ってなぁ〜」

 最後の頼みの綱も、笑顔ですぱっと見捨ててくれた。

 ニヤリとエヴァが笑う。

「さあ、覚悟を決めたな。
 行くぞ、茶々丸」

「はい、マスター」
 
「いやぁ〜っ?! 何故 私がこんな目
「マテマテマテ〜 俺はロリちゃうn
♂*△☆※♀〜〜っ!!!

 それぞれ赤と白に染まった二人の、声にならぬ悲痛な叫びが、燦々と陽光の降り注ぐ遠く彼方の海の果てまで響き渡った。

 

 

 

 【続きは私に任せるよろし】

 


 ぽすとすくりぷつ

 更にヤるか、マスターの追加を(爆) …って、自分で言うか(^^;
 これまた2番煎じの向きもありますが、夕映の仮契約は27が書き上がった段階で確定してた事なもんで。
 なにより、これン中では当人たちの……特に夕映の意志に反して、強制的に仮契約をさせていますしね(苦笑)

 何にしても、あれ程の漢気さえ見せなければ、夕映もこんな事にはならなかったのにねぇ…
 私に気に入られてると、ホンにロクな事にならんなぁ(苦笑) 高音もだけど、出番を根こそぎ奪われた刹那とか、ねぇ…

 せめて朝倉とか楓とか真名とか千鶴とかあやかとかアキラとか裕奈とかその辺りとだったら、横島も口ではともかく内心は喜べるんだろうけど…
 勿論、私が彼を喜ばせようとか考えてませんので、んな事は起こんない訳ですが(笑)


 
 

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