「それで、何の御用でしょうか?」

 京での最後の夜。 夕食も入浴も終え、疲れた身体を横たえようとした所での呼び出しだ。
 夕映は不機嫌さを隠さずにそう訊いた。

「あー… その、なんだ…
 ちょっと、昨日の事をもう一度ちゃんと話して欲しいんだ」

「もう一度、ですか?」

 頷く横島に、訝しげに視線を向ける。

 周囲には、高音と愛衣、エヴァに茶々丸。
 ここは、急遽参加する事になった彼女たちの為に用意された部屋である。 この顔触れは、当然だ。 ちなみに横島は、新田や瀬流彦らと同じ部屋となっている。

 この顔触れを見て、つまりはここに居る面々にも聞かせろと、そう言われたのだと夕映は理解した。

 だが、ならば何故ネギたちが居ないのか。 もしかすると、グループが違うのかも、などと思い悩む。
 のどかが与する以上、あの一生懸命で好感の持てる子供先生に何らかの不利益を与えてしまうような、そんな事態は出来るなら避けたいのだ。

 魔法使いたちが、しかし色々な思惑で天秤を取り合っているのは、のどかに聞いた話から判っている。 そして、おそらくこの顔触れは、ネギへの増援として寄越されたのだろう事も。
 しかし、だからと言って同じ意志や組織、利益の下に一体となっている面子だとも限るまい。

 後で、ソレもネギに確認を取らないと、と頭にメモをする。

 とは言え判断材料のろくに出揃ってない今、情報の制御なぞしようがないのも事実。 それに横島には、一通りの事を既に話してしまってもいるのだ。
 ネギらと完全に対立している訳でもないようだし、とチラリと顔触れをもう一度確認する。

 そうして、夕映は昨日の出来事を話し出した。

 

 

 


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GS美神×ネギま! CrossOver Story
  ざ・がーどまん
          その36   
 
逢川 桐至  


 

 

 

「ゆえに何の用だったのかなぁ、茶々丸さん」

 カリカリと何かを引っ掻く音を立てながら、のどかが呟く。

「さぁねぇ… あの人、クラスでもロクにしゃべんないからねぇ。
 それより、なんでエヴァちゃんの事マスターって呼んでるんだろ?」

「さ、さぁ…」

 どうせならご主人様とかの方が、とボヤくハルナも、シャーっと音を走らせている。

「それはそれとして、ハルナ」

「ん〜 なに〜?」

「いくらなんでも、会ったばかりの人たちまでネタにするのは、良くないんじゃないかなぁ…」

 手元の原稿を見るだに、思わず溜め息が零れる。
 肖像権とかに色々抵触しかねない絵面が、ソコにあるのだ。

「まぁまぁ、堅いことは言いっこなしって事で…」

 『茶髪』のバンダナを付けた高校生の少年が、『金髪』のハーフの『同級生』や『白い』髪のツンデレ『小学生』、中学生の天然風味な旧家のお嬢様と その彼女を慕う後輩少女など、個性的な美少女たちで構成された修羅場に翻弄されている。
 本人たちの目に止まったら、少なからず文句の出そうなそんなお話だ。 今日一緒に行動していた面々でなくとも、彼らを知っている人ならば、誰が誰かは はっきりと判るだろう。

 それでもハルナにしてみれば、『美少女たち』が『美少年たち』でないだけ充分遠慮しているつもりなのかも知れない。

「もぉ…
 と、こっちの背景 終わったから、私、ネギ先生に相談したい事もあるし、ちょっと行ってくるね」

 言うなり、のどかはそそくさと部屋を後にした。

「えっ?! ちょ、ちょっと、のどか?
 あしすたんと、かんば〜く〜〜っっ」

 一人部屋に残されたハルナは、しかし原稿を止める事も出来ずに叫んだ。
 今日のこのテンションは重要である。 それだけでもダメだが、勢いが無いのも創作にはマイナスなのだ。

「…うぅ。 誰か戻って来ないかなぁ…」

 木乃香と明日菜は席を外した刹那を追って、かなり前に部屋を後にしていた。
 あっちもあっちで面白そうだが、ともあれあの分だと簡単には戻って来ないだろう。

 戦力は激減したが、それでも諦めないハルナは筆を走らせた。 ただ一人。

 修学旅行でする事じゃないだろうと言うツッコミは、彼女には無意味だ、きっと。

「にしても、ネギ先生に、かぁ…
 うんうん、いいねいいね。 のどか、頑張んなさいよ」

 ポツリと零れた呟きは、茶化すだけでない確かな応援をも含んでいた。

 

 

 

 微妙な空気が流れている。
 あの少年との遣り取りを、話し終えてからずっとだ。 さすがに、夕映も何事かと口を開いた。

「あの…?」

「綾瀬さん、とおっしゃいましたね」

「はい」

 高音の様子に、恐る恐る返事をする。

「あなたは…
 いえ、もう私が何か言える範疇ではないかも知れません」

 口篭られて、夕映は不審げに彼女を見遣った。

「やっぱり、そう思うか?」

「愚問だな」

 横島が隣に座るエヴァへと水を向ければ、彼女は呆れたようにそう吐き出した。

「一体なんなんですか?」

 一人蚊帳の外で、ちょっと強めに訊き返す。
 困った様に、横島は彼女に応えて話し出した。

「…今日言ったけどさ。 夕映ちゃんだけ、石にされただけじゃなく更に真っ二つにされてた訳だ」

「ええ、確かにそう伺いましたが…」

「つまり、だ。 綾瀬夕映、お前はあのガキに、あの場で最も厄介な存在だと認識されたと言う事だ。
 西の長である近衛詠春ですら、ただ石化されただけだったんだからな。 それはもう、破格の扱いと言っていい」

 良かったな、との皮肉気で、且つ端的なエヴァの言葉に、首を傾げる。
 それがどうかしたのですか、と言い掛けて、夕映も何か引っかかるものを感じた。

「そして、これは私の所為と言えなくもないが、あのガキにだけは逃亡を許してしまっている」

「えぇと、それは、つまり…」

「そうだ。 今回の件で判っただろうが、魔法使いたちも多くのグループに分かれ、それぞれ対立も少なくない。 また犯罪に走る者たちすらもかなりの数に昇っている。
 少なくともそんな裏の世界の一部では、お前は麻帆良の戦力の一人だと認識されただろう。 ヤツの組織的背景は未だに不明だが、情報とは多かれ少なかれ流れていくモノだ。 一度流出すれば、そう簡単に止められるモノではない」

 そう言った所で、茶々丸に差し出されたお茶を口にする。

「しかも、お前はあれ程の惨状を、その日の内に治療されている。 ちょっとやそっとで治せる状態では無かったと言うのに、だ。 …まぁ、このバカが形振り構わなかった所為だが」

 じろっと、横島に視線を向ける。
 自身がやらせた面もあるのは事実だ。 が、正直 出来るとは思っていなかったのだ、そこまでは。

「とは言え外部から見れば、形振り構わずお前を治したのは東西どちらかの協会だと判断されるだろう。 本来、個人レベルで対応出来るコトじゃあないからな。
 つまり、無事な姿で麻帆良に帰った事が露見すれば、お前はそれほどに重要な駒なのだと、そう思われると言う事だ。 実際、お前があのガキにやってみせた事は、その絡繰りを知らぬ者には相応の脅威足り得る」

 魔法を使えてこその魔法使い。
 それだけに、どう言うカタチにせよ魔法の無効化は、魔法使いにとって自身を揺るがす脅威なのだ。 明日菜の境遇は、そこに端を発している。
 その上 夕映は、一線級の術者を一時的にとは言え、封じてみせたのだ。 …実状がどうであれ。

 そこまで聞いて、愛衣や高音の痛ましげな視線の意味が、夕映にもようやく理解出来た。
 事件の さなか
 事件の最中に捲き込まれ、どこか他人事の様にのどかの話を聞き、開かれた新しい世界の扉に高揚していた彼女の気持ちが萎んで行く。
 やはり新しい何かを手にする為には、リスク無しで、とはいかなかったのだ。

「残念だが、お前には全てを忘れて一般人に戻ると言う選択肢は無い。
 このバカの事を魔法界中に触れて回れば別だが、それはそれで問題があるしな」

「やっぱ、マズいか?」

「当たり前だ、バカモノっ

 おどおどと聞き返す横島に、思わずエヴァの拳が向かった。
 本当に、この男は自身の価値を理解していない。

「まぁまぁ…
 横島さんですから、そんな風に怒っても意味は無いですよ」

「後で、私たちがちゃんと言い聞かせておきますから」

 高音たちに謝らせられる横島を横目に、夕映はエヴァへと向き直った。

「でしたら、今後、私は…?」

 問い掛けて来るそのまっすぐな目に、小気味良いモノを感じてフフンと笑う。 理解していないのではなく、理解して尚屈せぬ夕映の姿勢は、エヴァにとっては好ましいモノだ。
 刹那その目を見返した後、浴衣に身を包んだ金の少女は口を開いた。

「選択肢は2つ。
 麻帆良で生涯を護られ続けるか、自身を護れるほどのチカラを身に付けるか、のな」

 夕映は木乃香の友であり、今回の件にも捲き込まれての参加だ。 彼女を護る事に、学園長が否やを出す事はあるまい。 但しその場合、下手をすれば終生籠の鳥だ。

「ならば、私に取れるのは後者だけです」

「ほう」

 予想出来た答に、心なし嬉しそうに呟く。

 見たところ、魔力はそこそこに有る。 体格も小さく体力より知力の方が光っているから、機を見出すなら魔法使いの道を歩むしかないだろう。

「だが、それは困難な道だぞ? 力尽き道半ばに終わったとしても当然なくらいの」

「だとしても、です」

 今回の事と、今の話。 その双方から、夕映は関らざる得ないなら相応以上の力が要ると認識した。
 新しい世界への興味もある。 だがそれ以上に、彼女には守りたいモノがあった。
 どちらも手放したくは無いのだ、ならば後は進むしかない。

 そんな見掛け幼い少女たちの問答に、感じ入るモノがあったのだろう。
 感極まった表情で、高音はすすっと進み出た。

「ならば、わた…」
「じゃあ、エヴァちゃんにお願いがあるんだが」

 言い掛けたセリフを遮られて横島を睨み付ける。

 そんな視線はどこ吹く風とばかりの彼に、エヴァは面白そうな視線を向けた。

「なんだ?」

「夕映ちゃんの師匠、やっぱエヴァちゃんがやってくんないか?」

 必ずしも正論と言い難いが、彼は出来るだけ強いモノがするべきだと考えていた。 美神より小竜姫、小竜姫より斉天。 横島自身の経験が、彼にそう認識させていた。
 別荘からの帰りしなに、娘を任せたいと詠春が彼女に頼んでいたのも聞いてたから、どうせなら一緒にと思った事もある。

「ふむ。 この私にそれを望むか」

「何だかんだ言っても、俺が知ってる中じゃ一番強いのエヴァちゃんだしな」

 たとえ、それが箱庭の中でだけ、だったのだとしても。
 もし全力でやり合えるなら、タカミチやガンドルフィーニどころか、学園長でもエヴァに勝つのは容易くないだろう。 横島はそう見ていた。
 近右衛門に関しては、トップを張る以上一番強いと単に考えての事。 実力を直接見た事がある訳ではないが、実力がものを言う世界では普遍的な真理であるし、実際 それだけの力を有しているのも事実だ。

 横島のそんな持ち上げに、エヴァは子供っぽく口の端を上げて踏ん反り返った。

「よく判ってるじゃないか。
 だが、この悪の魔法使いエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルが、何の代価もなくお前の願いを叶えるなどと、よもや思っては居まいな?」

「いや、んなコトは思っちゃいないけど?」

 要求されない方が不自然なのだ、少なくとも横島にとっては。

 身内に甘く、無償での応援も少なからずしてくれる美神は、だが対価と言う言葉の意味をしっかりと認識していた。 その見極めのラインがシビアで、一線を越えると途端にキツくなるソレを、彼は当然の事と見続けて来たのだ。
 また一見 無償に見える小竜姫たちにしたって、命の危険が代価だったと言えなくも無い。 それに、神族寄りの人間が増える事は、神界としては僅かでも益になるのだ。

 そんな訳で、横島にはエヴァの言い様は当たり前の事。 無償で助けようなどと言われたら、却って胡散臭く感じるだろう。

 判ってるじゃないかとばかりに、笑って頷くと、彼女は更に問い掛ける。

「ならば、貴様はこの私に何を差し出すつもりだ?」

 当人たちにとって当然の遣り取り。

 だが夕映にしてみれば、この話の流れは問題だらけだった。
 彼女の目には、色々と好ましくない所も多い人間である、横島は。 だが、貰ったお守りの事やら昨夜された治療やらと、彼に恩ばかりがある身の夕映なのだ。

 そこへ持って来てのコレである。

「ちょ… 待って下さい。
 それは私が差し出すべき事なのではないですか?」

「今は大人しく黙っていろ、綾瀬夕映。
 元々、この場自体、こいつの希望だ。 ならば、何かを差し出すべきは、まずこの男だ」

 その言葉に、夕映はまじまじと横島を見詰めた。
 どう見てもちゃらんぽらんな癖に、どうしてこうも気を利かせてくれるのか。 そんななんとも言えない視線に、彼は さっと視線を逸らして頬をポリポリと掻き出す。

「いや、ほら、俺にも責任無くもないしさぁ…
 どうせなら、 しずなさんとお近づきになろうかとか、そう言う事に気を回したかったんだけど」

「はぁ… 今朝も絞め落とされてるのに、ホント懲りませんね、あなたは」

「あの乳に絞め落とされるなら、本望じゃ。 いや、高音ちゃんのでもいいんだけどさ」

 わきわきと手を動かす彼の言葉を、不許可です、と即座に高音は切り捨てた。

「戯れ言はさておき。 で?」

 改めてエヴァは横島へと視線を向けた。

「ん〜 …まぁ、なんだ。
 ぶっちゃけ、エヴァちゃんの呪いなんだけど、何とか出来なくもないんじゃないかなぁ、と」

 その言葉にピクリと整った眉が動く。

「横島さん、何を言ってるんですかっ?!

「まあまあ、高音ちゃん…」

 ちょっとしたおふざけくらいなら耐性も出来てしまったが、さすがにその言葉は聞き逃せないと、高音は彼に食ってかかった。 が、のらりくらりとやり過ごされる。

 そんな彼女を気にせず、エヴァは一見優しげに横島へと問い掛けた。

「それは、文珠を使って、と言う事か?」

「んにゃ。 そっちでもまぁ、いつかは出来ると思うけど…
 俺が言ってるのは別の方法」

「横島さんっ!!

 俄に騒がしくなった空気に、夕映は苦笑いを浮かべている愛衣へと話し掛けた。

「私には何を言い合っているのか判らないのですが…」

「あぁ… えっとですね…
 エヴァンジェリンさんは、ああ見えても名の知られた賞金首だったんです」

「へ?」

「はい、確かにマスターの首には、かつて600万$の賞金が掛けられていました」

 愛衣の答に茶々丸の補足が入る。
 クラスメートのあまりに意外な過去に、思わず夕映は目が点になった。 この時点においてエヴァが吸血鬼であると言う事も知らないのだから、まぁ仕方ない事ではあるが。

「そんなエヴァンジェリンさんを、サウザンドマスターと呼ばれたネギ先生のお父さんが呪いを掛けて捕まえたんだそうで」

「その結果、この15年ほど、マスターは麻帆良で警備の仕事をされています」

 茶々丸が知るのは、ここ2年に過ぎないのだが、記録から言って明らかだ。

「15年?」

「マスターは600余年を生き抜いた真祖ですから」

 しんそしんそと呟いて、ソレが意味する事に唖然となる。
 魔法使いと言うだけでもファンタジー極まりなのに、そんなオカルトの代表格まで出て来るとは、夕映の想像には無かったのだから。

「まさか、桜通りの…」

「その通りです」

「な、ならば横島さんが言い出してるのは、確かに拙い事なのでは?」

「ええ。 関東魔法協会としては、マスターの解放は不利益が少なく有りません」

 一転 焦りだす夕映に、事実は事実と茶々丸は頷いた。
 魔法側の関係者であれば、誰もがそう判断するだろう。

 しかし。

「…けど、エヴァンジェリンさんも女の子ですし」

 諦めた様な愛衣の呟き。

 何せ横島だ。 やるとなったら躊躇いなぞすまい。
 ぽつりと零れたその一言で、その意は二人にも伝わる。

 それぞれの顔に、何とも言えない苦笑が浮かんだ。

 

 

 

「ふーん、なるほどなるほど… 改めて聞くと、なんとも非常識な話ばっかだねぇ」

「まぁ、一般人だった姉さんにゃ、そうだろうな」

 消灯時間も迫り、敷地内とは言え薄暗い中庭には他に人影の一つも無い。
 それを幸いと、朝倉はカモを連れ出しての情報収集に勤しんでいた。

「しかし、一通りは一昨日説明したと思ったんだが、どーよ?」

 ふっと紫煙を吐き出して、カモはベンチの背もたれの上から彼女を仰ぎ見る。

 ラブラブキッス作戦の施行に際し、仮契約を中心に話せそうな事はある程度 話してあった。
 だと言うのに、朝倉はその辺の確認を改めて尋ねてきたのだ。

「ん〜 ちょっと思うトコあってさぁ」

 苦笑いで答える。

 昨夜の夕映の姿は忘れられない。
 自分が笑い話でいられるかの瀬戸際に立っているのだと、危険を相応に含む非日常に足を踏み込んでいるのだと、向こう側に居るクラスメートの あの有様に気付かされたのだから。

 だが、だからと言って引く事も受け入れ難い。 何より、自身の好奇心がそれを許すまい。

「パクティオーかぁ…」

「なんなら、姐さんも兄貴としちゃあどぉで?」

「ちょっと悩むトコだよね」

 今日一日、ずっと考えていた。
 当事者、と言う立ち位置は、彼女の望む所ではない。 しかしこのまま踏み込み続ければ、自身の認識はともかく周りが部外者と認識してくれるかは不透明だ。 おそらく……いや下手をしなくても、かなりの確率で強制的に関係者とみなされる。
 引き返せるのは、たぶん今の時点がギリギリだろう。

 だが引き返す気が無いのもまた確かで。
 そうである以上、仮契約はある程度の保険になり得るのも事実。

 そんな逡巡をカモは好機と見た。

「俺っちは姐さんを買ってる。
 アスナの姐さんやのどか嬢ちゃんも、ありゃあ悪くない……っつーか良くやってくれてると思う。 だが、何分、兄貴と一緒でまっすぐだ。 まぁ、兄貴共々、あんまし余計な事に目を向けて欲しいとも思っちゃいないけどな。 成長は必要だが、いいトコが消えちまっちゃあ何の意味もねぇ」

 利発さに聡明さ、そして子供なればの潔癖さはネギの長所だ。 同様の良さは明日菜とのどかにしても似た様なもの。 後々までそうだと心配の種だが、今の彼らはまだまだ若い。
 これからも伸びるだろうネギを、そして明日菜たちを、カモは好ましく思っていた。

「…けど。 世の中ぁ、そんな奇麗事だけで片付くもんじゃあない。
 そんな時の為の俺っちなワケだが、悲しいかな、この身はオコジョ。 やって出来るこたぁ、身の丈ほどに小せぇ」

 朝倉から視線を空に逸らして、寂しげにそう呟く。
 無論、本心ではあるのだが、言うまでもなく打算を含んでいた。

「そうだろうね」

 朝倉の合いの手に、顔は向けずに頷く。
 たなびく煙が波打った。
「だから、出来りゃあ その事を理解してフォロー出来るなかま
「だから、出来りゃあ その事を理解してフォロー出来る従者が、兄貴の為に是が非でも欲しい」

 そんなカレの言葉を、打算も本音も理解した上で彼女は考え込む。
 それが出来ると知るからこそ、カモは朝倉へ腹芸めいた勧誘を続けているのだ。

「もう少し… もう少しだけ、考えさせてくんない?」

 背もたれに身体を預け、カモの様に空を仰いでぽつりと言った。

「いい返事、期待してるっスよ」

 気が無ければ、そもそも仮契約についての再確認なぞすまい。
 カモは口の端をそっと歪ませた。

 

 

 

「えぇい、いい加減邪魔をするな、高音・D・グッドマン」

「えっ、きゃっ?!

 ついに焦れたエヴァの実力行使が入った。
 昨夜の横島の様にその身を絡めとられたのだ。

「それで、どう言う事だ、横島?」

 尋ね掛けるが、横島の意識は既に彼女へ向いていなかった。

 その視線の先。
 四肢も胴も見えない糸に縛られた、暴れて少し乱れた浴衣姿の高音。 薄い布越しに年相応に成熟した身体が縛られ、インモラルに艶めかしい。 もうちょっとでポロリもありそうだ。

 それを目にした瞬間、浴衣を残して彼の姿が消えた。

「た〜かねちゃ〜」
「キャアッ!!
「んにょあっ?!

 飛び掛かられて高音が悲鳴を上げる。
 …が、横島の欲望は敢えなく止められた。

「なぁ、エヴァちゃん…」

「なんだ?」

 ムスっと訊き返す。

「何故に私は下着一枚で縛られてるのでせうか?」

「貴様が浴衣を脱ぎ捨てたからだろうがっっ!!

 パンツ一丁で白鳥の舞い。 今の彼の状態を、端的に言い表すならそうなる。
 糸に絡めとられて宙に浮くその姿は、それはそれは異様なオブジェだった。

「あの…」

「なんだ?」

「出来れば、私は解放して頂けると…」

 横島は正面からルパンダイブに突入して、今の状態になった訳で。
 高音の視界の真正面には、見たくないモノが見えていたりするのだ。 視線を固定されている訳ではないが、それにしても潔癖な所のある彼女には好ましくない状態だ。
 しかし。

「後だ」

「そ、そんな…」

「それより横島」

 高音の希望を一蹴すると、エヴァは顔を上げ彼へと向き直った。

「その内容次第で弟子入りの件は考慮しよう。
 さっさと話せ」

 阿呆な格好のまま顔だけ真面目になった横島は、思案気にたゆたう金色を見下ろす。

「考慮するだけ、とか言うオチじゃないよな?」

「そんな美意識に欠ける事なぞするかっ」

 目を釣り上げるて怒る。
 彼女は、既に詠春から木乃香の弟子入りを請われ、それを受けるつもりでいた。 だから、夕映に関しても、その気が無くもなかったのだ。 1からと言う点で、二人共 差は無いのだから。

 そんなエヴァの様子に、「ならいいんだけど」と呟いて横島は口を開いた。

「先にちょっと確認しときたいんだけどさ。
 愛衣ちゃんに聞いた限りじゃ、今ここに来れてるの、呪いの精霊を騙して学業の一環だって思わせてるから、なんだよな?」

 正確には、愛衣たちが学園長から聞いた話、である。
 手伝いの最中の質問に答えてくれた話なので、横島も聞いていた筈なのだが、難しい話は判らんと右から左にスルーしていたのだ。

「あぁ、その通りだ。 その為に、爺は今も書類仕事の真っ最中の筈だ」

「そいで、呪いの名前は登校地獄。 休日以外、毎日登校しないと苦痛に苛まれる」

 ムッとしながらも、それでも頷いた。

 横で聞いていた夕映が、ぼそっと「なんですか、そのツッコミ所満載の呪いは」と呟く。

「で、それ聞いてて思ったんだが…
 卒業しちゃえば無くなるんじゃないか、ソレ?」

「…は?」

 思わず声を洩らしたのは一人じゃない。

「だから、さぁ。 『卒業』しちゃえば、『登校』する必要なんか無くなるだろ?
 呪いってのは、何だかんだ言って言葉に縛られるからな。 起こせる事しか起こせない筈だ。
 それと、呪いを掛けられた場所って麻帆良じゃないんだろ? あそこに着くまでの移動の間、呪いの効果ってあったんか?」

「…あ」

 がっくりと膝を突く。
 確かに考えてみると、学生を強要されてそれに背こうとするまで、あの苦痛は起きていなかった気がする。 掛けた当人が一緒だったし、それ以前にあの時はショックで意識が飛んでいて、彼女にはそんな事に気付く余裕自体が無かったのだ。

「ですが、その程度で解けるなら、15年も学生をしなければならないなんて事にはならないのでは?」

 宙に浮く横島を殊更視界から外して、夕映が疑念の声をあげる。

「それなんだけどさ…
 エヴァちゃんの性格からして、登校してもちゃんと授業に出たりしてないんじゃないかと思うんだよな」

「確かにマスターは、出席を取るとそのままサボタージュに入られる事がままあります」

 屋上が定位置のエヴァなのだ。 授業への出席率は、目の当てられない事になっている。

「あぁ、単位、ですか…」

 茶々丸の肯定に、夕映も気が付いた。
 考えてみれば、確かにエヴァが授業を受けているのを見た覚えがロクに無い。 テストの時ばかりはちゃんと出ているし、そこそこの点も取っているから目立つ事は無かったが。

「そそ。
 それに、学園長の爺さんが卒業証書に印を押さなきゃなんないとか、クリアしなきゃなんない条件が、たぶん他にもいくつか有んだろうけどな」

 逆にそれさえ何とかなれば簡単じゃね?、と彼はそう〆た。

 手を突いて顔を下に向けているエヴァの身体が、ピクピクと小刻みに震える。

「で、どーよエヴァちゃん?」

「ふ… ふふふ… ふはははは…」

 部屋に響くヤケになったような笑い声が、なんとも痛ましい。

 そうして、京都での最後の夜は更けていった。

 

 

 

 【おいたせずに、大人しく続きを待ちなさいね】

 


 ぽすとすくりぷつ

 あぁ、高音ちゃん、脱がされなくても可哀想な事に(爆)

 それはともかく、そう言う解呪を先にやってる方いますけど、これも書き出した当初から私ん中にあったネタなんで…
 実際にそれで対処するかは、また別だったりしますが。 なにせまだ4月ですし、この話は5月中に終わりますから。
 それより近右衛門に対する恨み積みが、更に重なっちゃったのもアレですしねぇ(笑) まぁ、彼ならきっと生きられる。 …筈だ。 …たぶん。 …きっと(^^;

 とまれ、夕映っちは、あまりに漢気を見せ過ぎたもので、朝倉と違って部外者で居続ける選択肢は残んないだろうなぁ、と(苦笑)
 そんな訳で、ネギがエヴァの弟子になれた場合、この話では彼女の『弟弟子』になってしまうのだな(笑)


 
 

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