「ならば、私のターン。 場にズワイガニと毛ガニを召喚するです」

「ハハ〜ン、そいつは甘い。
 伏せられていたトラップカード発動。 ロシア国境警備隊だ。 北海道産のカニは、全て場から持ち去られる」

「くっ…」

 夕映は悔しさに手を突いた。
 苦し紛れでだったとは言え、手持ち最大級の壁が一瞬にして崩されると、もう彼女に残された手は無い。

 と障子越しの小さなノック。

「あ、はーい」

 勝ち誇ってご機嫌なハルナが、振り返りそちらへと向かう。

「ぶわっ?! ケホケホ… 何この煙…」

 ボワッと廊下側から流れ込んだ煙に、部屋の面々の顔が吸い寄せられ、そこに信じ難いモノを見た。

 

 

 


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GS美神×ネギま! CrossOver Story
  ざ・がーどまん
          その27   
 
逢川 桐至  


 

 

 

「こ… ここ、これは?!

 思わず動揺を洩らした夕映も、カードゲームを見守っていた朝倉も、警戒を顕に立ち上がる。

「パ… パル…」

 浴衣の懐から、カードを取り出したのどかに、煙の向こうから入って来た小柄な影が顔を向けた。

「そのアーティファクトは危険だね」

 顔を合わせるのは初めてだが、昼に仲間であろう獣人の少年に使っている。
 口を物理的に封じるなんて事は、彼女たちには出来なかった。 だから、知られていても不思議は無い。

「やっかいだから、君には眠っていてもらうよ」

 そう言うなり何か判らない言葉を呟く。
 ついぞさっき、ハルナを石へと変えた煙が従う様に湧き上がる。

「のどかっ

 だがその怪しい煙は、のどかへと向かう事は出来なかった。
 駆け寄った夕映の懐から輝き出した光が、周囲を蔽い守ったからだ。

「これは…?」

 呆然とした声を白い少年が上げる。

「ゆえ?」
「ゆえっち?」

 二人の上げる声に答を返せぬほど、夕映は夕映で現状に驚いていた。

 だが、そんな状況ですら彼女の非凡な頭は動き続けている。
 今起った怪現象が、昼にシネマ村で木乃香の身に起きたソレと同一のモノだろうと認識する。
 思い返したその状況と、目の前の現状とをつぶさに比較し把握し現状打破へと思考を走らせる。

「昼にここのお姫様が揮ったと言うチカラに似てるね」

 逆流する石化の呪煙を無造作に打ち払い、結界の質を調べようとしてか 少年が無詠唱での魔法の矢を夕映へと放つ。
 しかしその水の矢は、彼女に届く事無く光の壁に阻まれ消えた。

 見覚えのあるその現象に、やはり、と夕映は内心で頷いた。
 鍵は、木乃香と自身との共通項。 それに関しての心当たりが、彼女には有ったのだ。

「二人共、今の内に逃げるです」

「な、ゆえ…」

 左手を胸に当て、すくっと立って少年を見据えながらの彼女に、しかし のどかは躊躇いを見せた。

「私が抑えて居られる内に、早く
 可能ならば、助けを」

「ゆえっち、あんたも…
 判った、のどかの事と応援の手配は任せといて」

 夕映が起こしている不思議な現象に、朝倉は心当たりがあった。
 ネギの秘密を知ったのは、つい昨日の事。 慌ただしかったから失念していたが、考えてみれば魔法使いは彼だけと限るまい。
 だが、そんな内心の疑問を今は押し殺すと、のどかの手を引いた。

「えっ、だって…」

「私たちは足手纏いだよ、今はとにかく逃げて助けを呼びに行こう」

 そう言って、おろおろするのどかを朝倉が反対側へと連れ去った。

 

 

 

「コレは…」

 かなり離れた部屋まで進んでも、人の気配は全く無い。
 しかも漸く人影を見付けてみれば、パニック映画を模した様な石像の群れ。 それがナニカなぞ さっきの今だ、考えるまでもない。

「この人たち、パルみたいにさっきの子に…」

 のどかの泣きの入った声に、朝倉も難しい顔をする。

「…そうだ ネギ先生は?」

 昼の事を思い返せば、のどかにとって頼りになるのは思い人。
 残してきてしまった二人の事も、彼ならなんとか出来るかも知れない。

 のどかは一般人だと認識しているだけに、朝倉もネギと合流する方が良かろうと考えた。 自分はそれなりに体力に自信もあるが、のどかを抱えて逃げ惑うには足りないと判断したのだ。
 それに夕映が稼いだ貴重な時間を、無駄にする訳にはいかなかった。

「そうね、ネギ君に連絡とって合流しよう」

 顔を見合わせ互いに頷くと、朝倉は携帯を取り出す。

「私は掛けるトコあるから、ネギ君へは本屋ちゃんが」

「はいっ」

 何処かへコールする朝倉を他所に、のどかは自身のカードを取り出した。

「先生… ネギ先生

 恐る恐る使って見たソレに、即座に声が脳裏に返って来る。

『えっ? のどかさん?!
 無事だったんですか、良かった…』

「はい、私と朝倉さんは… でも、ハルナが石になっちゃって… 夕映が、夕映が…」

 ネギと言葉を交わせた事で、のどかはほっとして崩れそうになりながら残して来るしかなかった二人の事を告げる。
 途端に向こうの気配が、硬くなったのが判った。

『ハルナさんと夕映さんが?!
 のどかさんたちは今どこに?』

「部屋を出て北に向かった方の…」

 正門の逆、裏山へと通じる側で、逃げるのに容易い場所ではない。 勿論、狙ってそうしたのではなく、この屋敷の人を捜して辿り着いてしまったのだ。

『判りました… これからあのお風呂に集まるんです。
 朝倉さんと一緒に来て下さい。 道中、気を付けて』

 心配そうに指示が来る。
 今のどかたちが居る所へ向かうより、目的地での合流の方が早いと踏んだのだろう。 明日菜と一緒にいる木乃香を、敵が狙っている筈と言う優先順位の問題もあって、だ。

 念話が切れると、一度ぴくりと肩を震わせ、のどかは顔を上げる。
 振り返ると、丁度 朝倉も電話を切るところだった。

「先生は?」

「その、さっきのお風呂の方に集まるって、私たちも…」

「ん。 判った」

 短く言葉を交わすと、ほんのちょっと前にドタバタのあった浴場へ向けて、二人は黙りこくって走り出した。

 

 

 

 逃げ去った二人を目の端で確認すると、夕映は再び少年を見据えた。

 そんな彼女の視線も意に介さず、彼は疑問混じりの言葉を零す。

「一緒に逃げない、と言う事は自身を中心として発動してるって事かな?
 もしくは、発動させると動けない、って事も有り得るか」

「さあ、どうですか」

 能面の様に内心を顔に出さない少年へ、夕映もまたポーカーフェイスで向き合う。
 彼女にしても詳しく判っている訳ではないのだ。
 馬鹿にする様にうそぶ
 馬鹿にする様に 嘯きながらも、内心の不安を押し隠そうと、懐に当てた左手に きゅっと力を篭める。

「ふむ…
 魔力……なのかな、コレは? 良く判らないが、ここまで強力な結界は初めてだ。
 だけど、だとすれば君くらいの年齢では難しい術だよね。 恐らく、仕掛けながらでは他の術を使う事も出来ないくらいに」

 懐の裡。
 一度会っただけの年上の少年が……あの真面目なのか不真面目なのか良く判らない男が、その時 手渡してくれた小さな珠。 それを収めたお守り袋が、現状 夕映の持てる唯一の武器だった。
 どう使うのか、どこまで使えるのか、どれ程の力を持つのか、何一つ彼女には判らないそれだけが。

「だとしても、足止めくらいは出来るです」

 今の夕映にはそれしか出来ないのだ。 正確には、ハッタリによる時間稼ぎくらいしか。
 だからこの結界で逃げる事さえも封じられるのだと、自身の疑問をも隠してそう宣言する。
 実際には、逃げようとするモノを留める効果は無いのだ、彼女の望みとは裏腹に。

「確かにね」

 しかし、同じく少年も短く頷き返した。

 どうやらコレに関して何も判らないのは、対峙している少年にしても同じ事だったらしいと、その言葉に内心で胸を撫で下ろす。

 まぁ、ここでハッタリが出てくると判断するには、彼のチカラは強過ぎたのだ。
 自身の魔法を完全に封じるほどの相手が、何も出来ない素人であるなどとは、自他問わず誰も思わないだろう程に。

 視線を交わしながら、更に夕映は思考を走らせる。 のどかたちを逃がす為、出来るなら石像と化したハルナを救う為、自身に出来る事は何かを求めて。
 逃げた朝倉とのどかが、まず向かうのはネギの元か、木乃香の父親の元。 おそらく そのどちらかになる。 どちらにしても、更に残る一方と合流を果す事になると思われる。

 そして昼の自身非常識だと思う推論は、現に明らかな非科学的手法で襲ってきた目の前の少年の存在が肯定している。 加えて、今この現状を創り出しているお守りの中の珠の存在も、ファンタジーの領域だ。

 ならば、助けとて期待出来なくも無い。

「昼にここのお姫様も同じ事をしたらしいけど、ソレも、もしかして君が?」

「そう誰にでも出来ると思いますか?」

 相手の目的は木乃香の存在……その内包する魔力そのものに有るのだ。 だがその事までは知らぬ故に、夕映は敵の目を更に自分へ向ける事を選択した。
 あのぼやっとした天然少女もまた、彼女にとっては大事な友なのだから。

「なるほど、言われるまでもないか。
 なら、ここで逃げても堂々巡りになりそうだ。 まず、君をどうにかするのが先と言う事だね」

「そう簡単に出来るですか?」

 急に増した殺気に、しかし無理矢理に視線をまっすぐ返す。

 夕映は、常識の中で生きてきた少女だ。 どう足掻いても非現実的な現実と、向き合う事になったのは今日が初めての。
 けれど、逃げ出して無かった事にしたい状況の中、親友たちへの想いが彼女を支えている。

「簡単だ。 …とは、確かに言えないね。
 それでもこれ程のチカラだ、そういつまでも維持出来る筈が無い」

 そう言いながら、またしてもどこかから湧き出させた水流を、少年は自身の周囲へと走らせる。

 途端に、周囲を蔽う光が対抗する様に強くなった。

 負荷を掛けに来ている。 説明されずとも、それは夕映にも判った。
 だから左手に力を入れながら、ただ強く相手を見据える。

「そうそう。 ここ、関西呪術協会の総本山にいる魔法使いたちの助けを期待しているなら、それは無駄な事だよ。
 部外者だった筈の君たちと、ネギ=スプリングフィールド他の数人を除けば、皆 石化して来たからね」

「え?!

 助けが近くにはほとんど居ないと言う情報。
 加えて、自分たちの担任であるネギが、目の前の少年に少なくとも個人として認識される位置に居るのだと言う事実。
 それらが夕映の顔に刹那の動揺を浮かばせる。

 焦る自身を叱咤するものの、時もまた無情だった。
 周囲に満ちた光にゆっくりと陰りが見え始めたのだ。 それは、たった一つしかない彼女の武器が限界を迎えているとのサイン。

「最後に一つ聞いておこうかな。 君の名は?」

「綾瀬夕映」

 答えた直後。 お守りの中の硬い感触が無くなると同時に、夕映はいきなり走り出した。

 逃げたのではない、少年へと向かって真っ直ぐに突っ込んだのだ。
 ここに来て尚、彼女は時間稼ぎを選択したのである。 大切な友を逃がす為に。

「僕はフェイト・アーウェルンクス。 今はそう名乗ってる」

 少女の体当りとは言え、体格的にそう差が無い以上当たれば姿勢を崩される。

 そんな夕映の願望を、フェイトは軽く往なして即座に呪唱に移った。
 本来、一般人の少女に過ぎないのだ、彼女は。 当然、魔法に対するレジストなぞ出来よう筈が無い。
 あっと言う間に煙に包まれ、ハルナと同様に石像へとその身を変えた。

「やはり、もう魔力が残って居なかったみたいだね。 だとしても僕を抑え込んでみせたんだ、その事は誇ってもいいよ。
 ただ君と言う存在は かなり危険だから、悪いけどもう一押しさせて貰う」

 そう言って続けざまに水の矢を放ち、小さな少女の石像を真っ二つに打ち砕いた。

「余計な手間を取られ過ぎた。 急がないと。
 さて、お姫様は何処かな?」

 足元へ影の様に顕れた水の中に、フェイトはすーっと沈んでいった。

 

 

 

 聞こえてきた、ゴッ、ガッ、ガンッ、ダンッと言う、ナニカがぶち当たってたてた鈍い音に、のどかの顔色が変わる。

「本屋ちゃん、ストップ。
 私が様子を見て来るから、あんたはここに…」

「でも… いえ、だめです。 私も一緒に」

 夕映を、親友を置いてきているだけでも、忸怩たる思いが有るのだ。 敏い彼女の事、恐らくは無事逃げ延びているだろう。 そうと信じていても、心細さだけからでなく行動を彼女は望んだ。

 その顔付きに、朝倉も仕方なく頷いた。

「私が先頭。 焦らず付いて来て、いざと言う時は振り返らず逃げる。 いいね?」

 コクンと頷くのどかを確認すると、神経を研ぎ澄ませてゆっくり浴場へとにじり寄る。

「あ、待てっ!!

 行く手から聞こえてきた声は、二人にとって馴染みのあるソレ。

「ネギ先生?!

 思わず走り出したのどかに一歩遅れて、朝倉も仕方なく走り出す。

「先生っ!!

 飛び込んできた二人に、そこにいたネギと明日菜、刹那、カモの視線が一気に向かう。

「お二人とも、無事だったんですね」

 一瞬 安堵に緩んだ少年の顔が、しかしすぐに固くなる。

「ここに居るだけなの?」

「あぁ。 このかの姉さんは不意打ちされてあのガキに…」

 朝倉の問い掛けに、カモが悔しそうに答えた。
 詠春と別れてすぐに木乃香や明日菜と合流して、のどかたちを待つ中、周囲に気を配って居たのだ、彼らは。 だと言うのに簡単に襲撃され、あっさりと木乃香を攫われてしまった。
 ネギだけでなく、明日菜も刹那も悔しそうに顔を歪ませる。

「って、カモっちあんた…」

「あ、あぁいいんだ。
 そっちの嬢ちゃんも、こっちの事知ってから問題ねぇ」

「って、本屋ちゃんも?」

 隠そうとしていただけに、その顔には呆然としたモノが貼り付いている。
 思わずのどかは、ごめんなさいと頭を下げた。

「それより、お二人は早くココから明日菜さんと逃げて下さい」

「ちょ、アンタ・・」
「ネギ君はどーすんの?」

 タオル一枚と言う姿の明日菜が上げ掛けた声を、朝倉が遮った。

「僕は、刹那さんと このかさんを助けに行きます」

 杖を手に宙を見据える横顔に、少女たちは一瞬見惚れた。
 幼さを感じさせない決意がソコには有った。 明確な好意を持たずとも、その表情にはナニカ感じずには居られまい。
 のどかに至っては、更に惚れ直して蕩けそうになっていた。

「待って下さい… だったら、その、私、役に立てると思います」

 一瞬の沈黙の中、それでも最初に口を開いたのは のどか。
 ネギの驚いた顔に、自らのアーティファクトを呼び出して示す。

「あの子、私のアーティファクトは危険だって」

「確かに… 宮崎さんが一緒だったら、一味の目的や弱点なども判るかも知れません。
 けれど、危険ですから」

 木乃香を助けると言う至上命題には、必要足り得るチカラだ、『いどのえにっき』のソレは。
 だが刹那にしても、戦闘面では自衛も期待出来ない彼女を連れ出すのに、罪悪感の方が勝る。

「アスナもこのまま黙って引っ込める性格じゃないしさぁ、私も応援呼んじゃった手前、一緒に行くつもりだしね。
 なら、全員揃って急いだ方がいいんじゃないかな?」

 重い空気を吹き飛ばす様な朝倉の言葉に、ネギの造作が崩れた。

「えっ? 朝倉さんも? って言うか、応援って… えっ? えっ?」

 混乱するネギの横で、カモがナイスとばかりに朝倉へと親指を立てる。
 彼女もまた指を立てて応えると、ニヤリと笑った。

 

 

 

 【先輩、続きはまだやろか?】

 


 ぽすとすくりぷつ

 見事な迄に、横島の出番が無い(爆) いや、彼の霊能それ自体は、バリバリに出まくってますけど…
 って言うか、やっぱり夕映っちらう゛(笑)

 それはともかく、夕映の代わりに のどかと朝倉が入るから、この先も暫くは細めにネギ側を描写しなくちゃだわ(^^; 原作と展開変わんないトコは軽く流せるけど、明らかに変化しちゃうトコは、主役たる横島絡みじゃなくとも描かない訳にはいかないからねぇ…
 とまれ、修学旅行編で書きたい事の一つ、横島居なくても影響はデカかった、が、それなりに書けてきたと思うので良しとしよう。


 
 

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