眠りを破る感触に、ガタっと椅子を鳴らして立ち上がった。
 そしてそのまま、横島は窓の外の遠くの空を見据える。

 何処かで、文珠が使われた。

 自身の霊力でのみ構成されたソレは、しかし一旦 手元から離れたら、何処に有るかもどう使われたかのかも明確に認識出来るとは限らない。 それが判るくらいなら、有り得た未来の一つでへそくられたり隠し持たされたりなぞすまい。

 ただそれでも、使われたかどうかくらいなら何となく判る事が有るのだ。

 そして、現在。
 元居た世界から、切り離されてるも同然の今。 自身の手元に無い文珠の心当たりなど、わずかに二つしか無い。
 そのどちらもが、将来が楽しみな少女の手元に有る。

「無事だといいんだが…」

 常無くシリアスに呟く。

 その瞬間、横島のこめかみに1本の白墨がビシっと突き刺さった。

「ぬはっ? な、ナニがっ?!

「ナニが、じゃないわっっ
 授業中に一体ナニやっとるか訊きたいのは俺の方だ!!

 黒板を背に、現国の教師が睨み付けてくる。 周囲からの、バカだアイツ、とばかりの視線が痛い。
 授業中だったと言う現状に思い至り、横島は愛想笑いを返した。

「取り敢えず、横島」

「は、はいっ」

「バケツに水汲んで、廊下に立ってろ」

 

 

 


■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
GS美神×ネギま! CrossOver Story
  ざ・がーどまん
          その26   
 
逢川 桐至  


 

 

 

 時間は少し遡る。

 

「何だったですか、アレは…」

 綾瀬夕映は独りごちる。

 昨夜のホテルでのドタバタ騒ぎは、それなりに望ましい形で終えられた。 そんなこんなで疲れた身体をよそに、それでも親友が思い人とデート出来るようにと画策したのが今朝の事。

 こっそり抜け出そうとした明日菜の機先を制し、その意味ありげな行動から、ネギから目を離さないようにとのどかを焚き付け。

 ゲームセンターで彼女を含む3人とはぐれた事、その後のどかからの連絡が無い事から、巧く状況が運べているのだろうと安堵して、自分たちも楽しもうと思ったその矢先だった。

 何だか判らない内に始まった大運動会。

 あまり話した事のないクラスメートに、親しい友人である木乃香が引かれ行き、勢いに流されハルナと共に夕映も走り出すしかなかった。
 ハプニング自体は けして忌避する身では無い。 そんな事もあって、何かを嗅ぎ取ったらしいハルナの指示の下、二人が逃げ込んだシネマ村へと足を踏み入れた。

 そこで目にした百合疑惑。

 …は、まぁデマだろうと踏んだものの、その場に居た他のクラスメート共々 行動を共にした。

「そして、アレです」

 桜咲刹那と言うクラスメートと木乃香とが、捲き込まれていたアトラクション。

 百合疑惑を引き摺った珍妙な設定に、思わず頭の痛みを抑え付けずには居られない。
 しかも、何がどうなってどう動いているのかも判らない、ファンシーなマスコットたちに襲われたときた。
 その大騒ぎの中、這う這うの体で逃げ出してきての今。

「どうしたものですか…
 ハルナたちともはぐれてしまいましたし」

 思わず溜め息を零す。

 繰り返すが、ハプニング自体は歓迎だ。
 だが、それで疲れない訳ではない。 まして昨夜からずっと、ハプニング続きだったと言えなくも無いのである。
 そんな肩を落として腰を下ろした彼女を、しかし事態は休ませてはくれなかった。

「アレ見て、アレー」
「おい、マジかよ…」

 周囲のそんなどよめきに、夕映はその視線を彼らに合わせ。
 そして、固まった。

「な… 木乃香っ?!
 …と、アレはネギ先生ですか?」

 橋の上での大騒ぎの中、何時の間にか居なくなっていた木乃香。
 加えて、この場に来るより以前に、ゲームセンターで はぐれてしまっていたネギ。

 そんな予想外の顔触れが、予想だにしない場所に居る。

 夕映でなくとも、驚くだろう。
 しかも、どう見ても劇の範疇を飛び出した危機的状況なのだ。 小さいとは言え、それなりの高さの天守閣の屋根の上。 足元も覚束ない様子なのは、遠目にも良く判る。

 さっきのドタバタも充分にアレだったが、それでも致命的な危機感までは感じられなかった。
 ソレと比べると、木乃香たちの現状は驚き心配せずに居られない態のものだ。

 その時、同じく屋根の上に居る見知らぬ女性が声を上げた。

「聞ーとるか、お嬢様の護衛、桜咲刹那。
 この鬼の矢が二人をピタリと狙っとるのが見えるやろ お嬢様の身を案じるなら、手ぇ出さんときっ!!

「なっ!?

 その叫び声に、思わず声を洩らした。

 鬼と呼ばれた造形物は、明らかに人が入っているには大き過ぎる。 しかも場所は不安定な屋根の上で、視界が遮られる格好でなぞ自殺行為にも等しいだろう。

 だが、と思い返す。
 そもそも、さっきの橋の上での乱闘相手も、考えてみれば異常な代物ではなかったか。

 夕映の対象を選ぶ頭脳が、今この時は最大限に回転を始めた。

 普段なら笑いとばす所だが、眼前の状況を劇でもトリックでも何でもなく、現実に起きている争いだと前提する。
 無口なクラスメートは友達の護衛で、自分の友達は何らかの地位を持つ一族の人間。 あの眼鏡の女性たちは、その一族と敵対関係にあるか敵対しようとしている集団だ。
 そして、その争いには科学で割り切れない物をベースにしたナニカが絡んでいる。

「非常識です…」

 思わずそう言葉が漏れるが、しかし否定は出来ない。
 そんな思考に新たな展開が停止を掛ける。

「…あっ?!

 高さ故に当然だろう突然吹いた風に、煽られてネギと木乃香が屋根の上で揺れたのだ。

「あぁっっ!!

 今度こそ夕映は大きな声で叫ぶ。
 鬼の手に番えられていた矢が、勢いよく放たれたからだ。

 瞬時に忍者装束のネギが前に出る。 矢を手で弾こうとしたのか、しかし敵わず矢は木乃香へと向かう。
 間違いなく当たると思った瞬間、木乃香の目の前に別の人影が現われた。

「…せっちゃん?」

 庇う為に飛び込んで来た小柄な少女を見て、木乃香の口から彼女の名が零れた。

「だめですっ

 飛んで行く矢に、悲劇を予想して声を上げた夕映の視界の中。
 突然、木乃香を中心として、眩い光が一気に弾けた。

 

 

 

「な… なんやと…?」

 屋根の上で気を吐いていた天ヶ崎千草は、その光景に呆然と呟いた。

 見詰めるその先に居るは近衛木乃香。 彼女を庇う様に前へと回り込んだ桜咲刹那。
 そしてその二人の直前で、いきなり自ら飛ぶのを止めて屋根の上に落ち、その傾斜に従って下へと転がって行く一本の矢。

 唖然としている所を見るだに、刹那の仕業でないのは確実だろう。

「コレが、このかお嬢様のチカラ、なんか?」

 当惑が先に立つのは、その波動が魔力の様に感じられないからだ。

 洋の東西を問わず、力の行使は気か魔力を以ってなされる。 千草にした所で、それなりに強い魔力が有って、初めて術者としてこの場に立っているのだ。
 だが、気ではこんなカタチの発動は有り得ない。

 となれば、コレが木乃香の基本的な波動なのだろうと、千草は自分の中で決着を付けた。

「まぁ、えぇわ。
 さ、お前らお嬢様を奪いに行くで。 月詠、あんさんもや」

「はぁいなぁ」

 軽い返事と共に、彼女たちは動き出す。
 しかし、そうは問屋が卸さない。

 一番早く近付いた熊鬼が、迎え撃とうとした刹那の攻撃よりも先に、未だ光り続けている結界に触れた瞬間 弾かれたのだ。
 しかもそのまま飛ばされながら御札に戻され、ひらひらと屋根の下へと落ちて行く。

「そ…そないバカな?」

 思わず喚く千草の視界の中、斬り掛かる姿勢の月詠もまた何かにぶち当たって弾かれた。

「いたたぁ…
 なんやのぉ危ないやない〜」

 屋根の端を周ったから、そのまま下へと転がり落ちそうになっただけに、彼女の顔色は言葉と裏腹に青い。

 それでも神鳴流。
 すかさず体勢を整え距離を取ると、光のドームへと斬り掛かる。

「はぁ〜 ざ〜んく〜せ〜ん〜っっ」

 べしっと鈍い音を上げ、それすらもが呆れる程 簡単に防がれた。

「光っとるウチは、手ぇ出せへんて事かい…」

 式が還されたのを見る限り、今の千草の手持ちの呪符では効果は薄いだろう。 しかも、気も無効化され物理的に遮断されているのは、今、月詠がやってみせた。
 そうなると現状で彼女たちに打てる手は、おそらく突発的に発動したのだろうチカラが途切れるのを待つくらいだろう。

 だが、時間は千草自身にとっても敵だった。

 元々、この襲撃は予定してのソレではないのだ。 手に入るなら早い方が良いと言う程度のものでしかなかった。 たまたまタイミングが良かったから仕掛けただけの事。

「チッ。 今日んとこは勝負預けたるわっ」

 まだ取れる手も使える人手もある。
 人目も多いこの場はここまでと、千草は悔しがりながらも冷静に撤退を選択した。

 

 

 

「さぁ行きますわよ、横島さん、メイ」

 横島と愛衣の案内と言うミニデートに、高音が突然参加すると言い出したのは今日になって。
 彼女のそんな態度の変化に、横島と愛衣は戸惑っていた。

「ほら、何をしてるの? 今日は大学部に顔を出すのでしょ、もっとしゃっきりなさい」

「は。はい。 お姉様」

 笑顔の高音に、思わず見蕩れる。

「…? どうしたんです、横島さん?」

「え? いや、なんでもない」

 愛衣だけでなく彼女が一緒と言うのは、横島にとって諸手を挙げて歓迎出来る事態だった。
 ただ、その言動の裏にナニカを感じ取って、ついビクビクと様子を窺っていたのである。

「さ、行きましょう」

「お、おぉうっ」

 取られた手の柔らかさに暴走しかけるも、しかし反対の手をささっと愛衣が抱え込んで抑え込まれた。
 横島がどう動くかなぞ、短いながらも積み重ねた時間が教えてくれる。 だから、そのくらいの事なら、彼女は阿吽の呼吸の様に行えた。 それは嫌な事、と言う訳でもないし。

 そんな様子は、二人の少女に一人の少年が取り合いをされている様にも、傍目には見えるかも知れない。

「ぅよぉ〜くぉ〜し〜むぁぁぁっっっ!!!!

 いや、実際にそう捉えた者たちが居た。
 町並みの一角を埋め尽くしそうな数の男たちが、何時の間にか3人を取り囲んで血涙流して憤りの雄叫びを上げる。
 主に高校生の男子を中心とした、制服もバラバラな集団。

 その中から、茶髪の少年が一歩踏み出す。

「メイちゃんに続いて小学生の双子、更にはウルスラの娘までとは…
 俺たちは断じて貴様を許さぁんっっっ!!

 プルプルと拳を震わせての魂の雄叫び。

「だぁっっ。 一度撒いたのにしつこいわいっ。
 つか俺が誰と一緒に居ようが、おまえらにゃ関係なかろうがっ

 思わず叫び返した横島に、続けて眼鏡のクラスメートがやはり血涙零して言葉を吐き付ける。

「黙れ黙れ黙れどわぁまれぇ〜いっ!!
 人の不幸は密の味、人の幸せ壊してなんぼ。 お前ごときがそんな美人といるなんぞ、我々の熱き血潮が許さんのだ」

 身も蓋もない魂の叫びに、そうだ、そうだ〜、と気炎を上げる『彼女無き輩達』。
 そんな集団に、見慣れていない高音が思わず呟いた。

「な、なにごとなんです?」

「えっと… その、いつもにょあ?!

 答え掛けた愛衣の言葉が途切れたのは、言うまでもなく横島が逃げに掛かったからだ。 彼女たちを抱えて。

「ちょ、横島さん。 あまり目立つことは」

「しゃあないんやぁ〜
 ほっとくとあいつら、しつこく付き纏いやがるし」

 少女二人を抱えてとは思えない勢いで、しかも平然と答えている彼は、確かに街中では悪目立ちしまくっている。
 尤も、この男子校が配された地区の周辺では、ここ最近 毎日の様に繰り広げられている光景なのだ。 だから周囲の一般人たちも、既にまたかと言う目でしか見ていなかった。

 自身のウェイト**kgと愛衣の**kgを合わせれば、横島の体重にも匹敵するかだろう。 それを小脇に抱えて、なのにこの足取りの軽快さ。
 流れゆく景色を見ながら、高音は逐一彼の能力を計っていた。 見回りの時と異なり、じっくりとただそれだけを。

 先日の横島の大暴露に、高音の彼を見る目は少し変化していた。
 元々高いと思っていた能力が、制限有りとは言えソレどころではないと知れたのである。

 …と言っても、その能力の強さに惹かれた、とかそう言う事ではない。

 それ程の能力が有るのに、アレ、だと言う事実が彼女には許容出来なかったのだ。
 勢いで口走った、責任を取らせる取らせない、とか言ったそれ以前の問題として。

 もし、もしもこれ程の能力を世の為人の為に活かせる様になったなら、どれ程 素晴らしい事だろう。

 そう思えばこそ、高音は横島と今まで以上に拘わろうと考えたのだ。
 何故自分があの夜、脱がされる事になったか判明したから、二度とさせないようにしたかったと言う事もあるが。

 やがていつもの様に、一部の漢たち以外が引き離されて行く。
 逆に言えば、この程度では横島を見逃さない連中が居ると言う事。

 高音はその事に驚いていた。
 時として魔法使い並みに非常識な人間が居る事を知っていたものの、ハンデ付きとは言え横島の非常識にすら追いすがれる程とは思っていなかったからだ。

「うぅ、やっぱ来たか…」

「まぁ、いつもの事ですし」

 泣き言を洩らす横島に、愛衣が慰めの声を掛ける。

「だぁっ おまいらも しつけぇぞっっ!!

「なら諦めて、俺たちと勝負すればよかろうっ」

 振り返りながらの罵言に、涼しい顔で追い詰めに掛かった豪徳寺からの返事が返る。 漢臭い笑顔を振り撒いて。

「い〜や〜じゃ〜っ、つっとろーがっ」

「お前みたいな強者を見逃せるかっ

 側面から飛び込んできた大豪院の蹴りが、土煙を立て大地を穿つ。 続けざまに木刀が突き込まれ、更に別の男からの蹴りが、しまいに裂空掌の一撃が襲い掛かる。

 難なくソレらを避けていく横島の腕の中で、諦めた様な高音が愛衣に尋ねた。

「これも、まさか、いつもなの?」

「…えぇ、お姉様」

 諦めきった様な妹分の答に、彼女も溜め息を零した。

 二人の持つチカラは あまりにも目立つから、今この場を何とかする事は難しい。
 ただでさえ、人目を引いているのだ。 しかも、周囲を囲んでいる者たちの中には、明らかな『気』の遣い手が数多く混じっている。
 揚げ句、遠巻きに見物する一般人まで居るとなってはどうにもならない。

 横島も横島で、二人をほっぽって逃げれば、もっと簡単に逃げられるのだ。

 この漢たちも、あえて彼女たちに拘ろうとはすまい。
 人質に、などと言う思考をする者は、この場には一人も居なかった。 また、高音たちの実力は魔法行使を前提にしなければ けして高いものではないから、彼らの力試しの相手と認識される事も無い。
 だから、言ってしまえば二人は漢たちにとって、視界の外でしかないのだ。

 その事は、横島も理解している。 バトルジャンキーの思考なぞそう複雑ではないし、実体験的にも認識出来ているからだ。
 なのに、いつまでも抱えているのは、単に横島が離したくないから。 …それで煩悩が湧き立って、力になっていると言うのも小さくないが。

「いつもの様に森を抜けっぞ」

「はい」
「本当に、いつもの、なんですね…」

 横島の声に、それぞれの反応が返る。
 それを確認して、いつもの様に都市外縁を目指して走り出す。 その日その日で向かう方向がバラバラだから、待ち伏せや罠はまだ張られた事は無いが、全く以って双方共にご苦労様な話だった。

 そんな有り得ない速度での逃走劇の中、高音は改めて決意を新たにしていた。
 この男を真っ当な道へと引き込む事を。

 それに本当に仮にだがそれでも自身の従者でもあるのだから、真人間になったのなら責任取らせる事を考えてもいいし。 …などと密かに思いつつ。

 

 

 

 【続きはまじめになさい】

 


 ぽすとすくりぷつ

 高音ちゃんって、ほら、マジメさんだから(苦笑)
 この地での一番の被害者さんだから、恋心みたいなものと言うにはちょっとズレてますけども。

 木乃香の文珠は、どう考えてもここで発動しない筈が無いんで、大方の予想通りでしょうね(^^;
 事実と違って、刹那にしてもネギにしても、これが彼女のチカラだと信じちゃうでしょうから、展開的には原作の流れとあまり変わりませんが。

 それはそれとして、書き連ねるほどに違和感が増して行くのが、夕映の木乃香の呼称。
 夕映の内的世界において、血族以外では一番内側にルームメイトたちが入ってる訳なんですけど… その関係を構築する上で重要な出逢いの場に木乃香も居て、部活その他での付き合いもある筈で。 だから十二分に親密な友人とするのが自然なんですよね、原作の描写を見る限りでは。
 なのに、木乃香は『さん』付け。 クラスのその他の面々並の扱いで、よっぽどバカレンジャーに対する方がフランクなのはどう言う事なんだろう。 ちょっち謎(苦笑)
 なもんで私の話では、木乃香も呼び捨てにしてしまいます(__)


 
 

前へ
戻る
次へ

 

感想等頂けると、執筆の糧になります。 お手数でなければお願いします。
  

タイトル

お名前をお願いします。
(任意)

差し支えなければ、メールアドレスをご記入下さい。
(任意)

ご感想・コメントをお願いします。

入力内容を確認後、下のボタンを押してください