「つ…」

「大丈夫ですか、マスター?」

 黒いマントに包まれた小柄な身体が、メイド服の少女に支えられる。

「…あぁ、問題ない」

 言葉と裏腹に、マントから覗く裸足の足取りはソレが痩せ我慢だと告白していた。

 主の言葉を能面の様な無表情で頷き返すと、それでもけして大きくない身体でマントごと抱え上げる。

「すまんな…」

「いえ」

 日が変わるまで、もう少し。
 人目に付かぬ闇深い林の中を、少女たち主従はゆっくりと進んでいた。

 

 

 


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GS美神×ネギま! CrossOver Story
  ざ・がーどまん
          その23   
 
逢川 桐至  


 

 

 

「さすがは、と言うべきですかね」

 どこか軽薄さを感じさせる笑顔でのその言葉に、ガンドルフィーニは視線だけで尋ね返す。

「アレが彼女の全力って事はないでしょうけど、それでも『闇の福音』と正面から打ち勝てるとは思いませんでしたし」

 なにせまだ10歳なのだ、あの少年は。
 相手となった『闇の福音』エヴァンジェリンの目を逃れる為、ギリギリの距離から監視していたガンドルフィーニたちにしても、彼の少年の力量には驚かされた。

「確かに、彼の血筋を感じさせる強さだった。
 瀬流彦君も うかうかしてられないね」

「いやぁ、それを言われてしまうと…」

 ハハハと、瀬流彦は苦笑いで返す。

 そんな二人の視線の先には、姉弟の様にも見える仲の良さそうな少女と少年。 言わずと知れた魔法教師ネギ=スプリングフィールドと、その仮初めのパートナーとなった神楽坂明日菜である。
 ネギの肩の上にはおこじょ妖精が乗り、何事か口にしては明日菜のツッコミを受けている様だ。

 つい先程まで、力量以上の戦いを強いられていたとは思えない彼らの明るい様子は、それでも自らのチカラをもって乗り越えたからか。 疲労こそ見て取れるものの、その足取りは軽い。

「ん?!

「どうしま…」

 不意に空を見上げたガンドルフィーニに問い掛け、しかし瀬流彦もすぐに気が付いた。
 けして小さくない魔力の塊が飛んでいる。 それも夜空に映える白さが、素人の目でも容易に確認出来そうな程だ。

 宙に描かれた軌跡は、彼らの頭上を越えて少し離れた薄暗い林へと突き刺さる。
 再びネギたちへと視線を向けるが、疲れもあってか彼らは気付いていないようだ。 おこじょ妖精は気付いているかも知れないが、だとしたらさっきの今だけにリスクと取って黙っているのだろう。

「どうしますか?」

 問い掛けに、眼鏡へと手をやって暫し黙考。

「位置的に彼女たちの方が近そうだ。
 連絡だけして、私たちはネギ君が部屋に戻るまで見届けよう」

「判りました」

 その指示に、瀬流彦はすぐに同僚へと念話を飛ばす。

「トーコさん? えぇ… 今の… はい。 お願いします」

 ガンドルフィーニは、もう一度白い影の落ちた先を見遣って、すぐに護衛対象の方へと視線を戻した。
 あの白いナニカが、自身の良く知る誰かを包んでいたとは気付かずに。

 

 

 

「むっ?!

 黒マントの小柄な少女……エヴァンジェリンは、さすがにソレに気が付いた。
 元より感覚は優れているし、そもそも自身のいる方へと向かって来ているのだ。 気付かぬ筈が無い。
 渋々、従者であるメイド少女を促す。

「茶々丸」

「はい」

 正体不明の魔力の塊だ。
 疲労を理由に放置したくなるが、ついさっきまでの一連の自身の行動を考えると、見ぬフリをしては協会との間に少なからぬ軋轢を呼ぶだろう。
 それ以前に、まるで狙ったように彼女たちの方へと飛んで来ているのだから、無視出来る筈も無かったが。

 予測軌道上から離れると、エヴァを下ろして茶々丸は身構えた。

 夜空を隠す木陰を貫いて、白いナニカが一瞬前まで彼女たちが居た場所に突き刺さる。
 即座に聞こえる鈍い着地音。

「のはぁ〜っ?!

 続けて、吐き出される様に妙な叫び声を上げる何かが、更に着地点の向こうへと飛んで行く。

 ちらりと飛んで行った何者かに目をやった後、エヴァは のそりと伸び上がった白い影へ視線を戻した。

「ふん… 木偶の類いか」

 魔力で創り出した半物質を、精霊や影などを操る術と同系統の魔法で操作するモノ。
 一目で、彼女はそう読み取った。

「しかし、さっきのは術者ではない様な…」

「ハイ。 飛んで行った人影からは魔力、感知出来ません」

 整った平板な顔の中、光る瞳で闇を見据えて茶々丸は答えた。

「なら そっちはともかく、コレは始末せねばならんか」

 いかにも面倒くさそうに呟く。

 術者が近くに居ないのなら、抛って置いても自身を構成する魔力が薄れて、遠からず自然消滅するだろう。
 だが、エヴァたちを見据えている様な動きからすると、通りがかった一般人にも襲い掛かりそうにも見える。 まぁここへの侵入者のやる事と言ったら潜伏か陽動だ。 闇雲に暴れるような設定をされていても不思議ではない。

「まったく、厄介だな…」

 今、彼女がその身にしているのは、大きめのマント ただ一つ。
 魔力を封じられている今、魔法薬の一つも無ければ出来る事が無い。

「茶々丸、いけるか?」

「ハイ、マスター。 バランサーの損傷は軽微。 誤差の範疇です」

 少し前までの小競り合いで受けたデコピンは、見た目に反してダメージの小さなモノでは無かった。 低くない身体能力を、魔力供給で大きく底上げされていたのだ、それは当然だろう。
 だが、茶々丸はそもそもの構造が丈夫なガイノイドである。

「ならば任せる。 やれ」

「ハイ」

 命令に従って、白い魔力塊へと飛び掛かる。
 殴り付けようとする彼女の拳を、白い触手が迎え撃った。

「ちっ…」

 打ち合いをする従者と白い塊とに、エヴァは舌打ちをした。

 魔力供給さえされていれば、あの程度のモノ、茶々丸にとってどうと言う相手ではないのだ。 だが、停電していた間と違って、今のエヴァにはその程度の魔法すら紡げない。
 不自由な自身の境遇に、一瞬、不満が湧き上がる。

「ナ…」

 不意に、茶々丸が声を上げた。

 訝しげに見詰めるエヴァの視線の先で、彼女の身体が地面から生えた白い触手に持ち上げられる。
 殴り合いをするソレとは別に、触手を地下に走らせていたらしい。

「ムダに凝っているな」

 木々を圧し折る勢いで投げ飛ばされていく従者を見て、憎々しげに呟く。

 アレ程度で茶々丸が沈黙する筈は無い。 すぐに戻って来るだろう。
 だが、あの類いの相手に効きそうなナニカの持ち合わせが、今の彼女には無いのだ。

 襲い来る触手をひらりと躱しながら、仕方なく従者を待つ。
 が、蓄積されていたダメージが、彼女の身体を裏切らせた。

「ちっ…」

 一撃を覚悟して身構えた瞬間、エヴァは大きく横へと引き摺られた。

「え?」

 翳めた白い攻撃が、黒いマントを引き裂く音がする。

 そんな事よりも、自分を守ろうとしたのだろう抱き締められた腕の暖かさの方が、彼女の意識を縛っていた。 かつてサウザンドマスターに取られた手の熱さが……ついさっきネギに抱え上げられ助けられた時に思い起こされた、彼女の中に脈打つ思いが激しく広がって。
 しかし、そんなメランコリックなナニカは、あっと言う間に霧散してしまった。

 …おバカな叫び声に。

「なぁっ?!
 裸体が幼女っ?!!

「だ、誰が幼女かっっ!!

 思わず反駁する彼女をよそに、その男は地面をドンと殴り付けながらグチを口にする。

「いかんいかんぞ、こんな歳で露出趣味だなんて絶対にいかんっ 人として倫理的に許されちゃあダメだろう、絶対。
 何より、もっと育ってからならともかく、こんなもん見ても楽しくも何ともないし…」

 思わずエヴァはその後頭部を蹴り飛ばした。

 大事な思い出を想起させられておいてのソレだ。
 しかも、『こんなもん』扱いである。

 色んなモノを穢された様に彼女が感じたのは仕方ないし、感謝の言葉より先に蹴りが出たとしても誰もが責めたりはしないだろう。
 蹴られた当人は別として。

「ナニしくさるか、このインモラル幼女っ

「だから、誰が幼女だ、この夜行性変質者っ

「ぐはっ?!

 思い当る事が全く無くもない悪し様な言葉に、胸を押さえて呻く。

「そもそも貴様はナンなんだ?」

 誰何に、気を取り直して横島は胸を張った。

「俺か?
 俺はこの都市を闇から護る、ザ・ガードマにょわっとぉおぉうぅっ?!

 口上途中で、エヴァを抱えて飛び退る。
 白ミミズを倒していた訳ではなく、横島たちはその攻撃から単に逃れていただけだったのだ。 動きが遅い所為で、二人して漫才もどきな事をしていられただけ。

「ちっ」

 舌打ちすると、横島は白ミミズに向き直る。

「おいこら、貴様は逃げろ」

 そんな彼へ、エヴァが言う。
 魔力を全く感じない上、気の遣い手たちの様な身のこなしも見せないのだ。 ヒーロー願望の素人と、彼女が独り合点したのも無理はない。

「あー、大丈夫大丈夫。 ガキんちょはそこで見てな」

 へらへら笑いながらのその様子は、エヴァでなくとも信頼し難かろう。
 だが、止めようとした彼女に、着ていたGジャンを投げ渡すと、横島はまっすぐに吶喊した。

「どぉりゃあ、死ねや、ンちくしょぉうっっ!!

「な…」

 いきなりその腕に現われた光の剣に、エヴァは目を見開いた。
 魔力ではない。 おそらく、気でもない。
 自身、チカラを封じられているとは言え、その程度の事を見誤るほど感覚が鈍くなっている訳ではないのだ。

 そうこうしてる間に、白い軟体は切り裂かれ削られて小さくなって行く。

「おりゃおりゃおりゃあぁっ!!」 

 横島も何も考えずに吶喊したのではない。
 先の戦いで術者が目に付く近くにいた以上、例の無茶苦茶な再生の条件がソレと踏んでいたのだ。 実際、魔力の供給をなされない白ミミズは、程無くその姿を消した。

「貴様… 一体何者だ?」

「ん? だから言ったじゃ…」
「マスター?」

 横島の声を遮り、薮を掻き分けて茶々丸が現われた。

「無事だったか。
 痕跡は残っているか?」

 耳のパーツが折れ飛び服に鉤裂きを作りながらも、その足取りはしっかりしている。
 命じられた検証に、使える検知機器を動員すると、すぐに茶々丸は首を横に振った。

「イエ。 完全に滅しています」

 続けて横島へとペコリと頭を下げる。 

「マスターを助けて頂き、ありがとうございました」

「いやいや大した事してないし」

 その言葉に、エヴァはピクリと眦を動かす。
 魔法使いとして3桁の年月を生き長らえた彼女にすら、杳と判らぬチカラの遣い手だ。 その謙遜は微妙に癪に障る。

「それより、そっちは大丈夫なんか?」

「ハイ。 オーバーホールは必要でしょうが、機能に大幅な問題は出ていません」

 無表情にこくりと頷く姿に既視感を覚えて、横島は小さく苦笑した。
 マリアも自身の怪我を低く見積もる節が有った。 ほんの半月とは言え、離れた世界が不意に思い起こされて、軽く首を振って頭から振り払う。

「にしても…」

「な、なんだ?」

 意味ありげに視線を向けられ、エヴァは思わず身構えた。

「露出癖に加えて、年端も行かぬ娘にマスターとか呼ばせちゃうとは、なんちゅう難儀な性癖の幼女なんだか…」

「おかしな性癖なんぞ持っとらんわっ つか、幼女幼女と くどいぞ、貴様っっ!!

 腕を振り回して怒る。
 だがその様子は、すっぽり着込んだ大き過ぎる横島のGジャンの所為で、その手の趣味の人ならずとも愛らしさを覚えそうな態だった。

「むきぃ〜っ」

「マスター、あまりそう血圧を上げられては…」

 宥められる様子もが、また可愛らしい。

 しかし、それらを横島は見ていなかった。 宙を睨んで何やらぶつぶつと呟いていて。
 訝しげな視線に気付くと、徐に口を開く。

「んっと、そっちのロボっ娘…」

「絡繰茶々丸といいます」

 問い掛けに律義に答える彼女に、横島は歩み寄る。

「そか、茶々丸ちゃんな。 あ、俺は横島忠夫。
 ちょっとじっとしててくれっかな」

 そう言うと、文珠を取り出し『直』ると文字を篭め、彼女の背中へと当てる。

「なに?」

 一瞬柔らかい光が茶々丸を包み、すぐに消えた。
 それもまた、エヴァの目には魔力でないと映る。

「貴様、ナニをした?」

「自己診断機能チェック開始。 ……障害完全解消、破損部位完全修復。
 ナニをしたのですか?」

 見れば、耳のパーツから服の傷まで全て無くなっている。
 エヴァの目が更に見開かれた。

「ん? 女の子がそのまんまってのもナンだしな。
 全部直してみたつもりなんだが、ナンかまだ問題あるか?」

 それには、首を振って答える。

「そっか。 本当は家まで送ってってやりたいトコなんだけど、さっきからうるさくってな」

「イエ、それには及びません」

 済まなそうな横島に、茶々丸はそう答えた。

「んじゃ、そう言う事で。 そっちの幼女もまたな」

 突然浮かび上がった足元の魔法陣は、エヴァたちにも見慣れた召喚時のソレ。
 色々言いたい事も訊きたい事もあったが、エヴァは自身の頭を整理する事を優先して、光に消えていく彼をそのまま見送った。

「あの男… 最後まで、人を幼女幼女と…」

 ギリギリと歯を食い縛りながら、ではあったが。

 

 

 

 【続きではきっと…】

 


 ぽすとすくりぷつ

 最後の最後まで、エヴァには自己紹介してないし名前も聞いてません、横島(笑)

 それはさておき、漸くエヴァにも会わせられたんでホッと一息。
 修学旅行編も見えてきたしね。 まぁ、まだ数話挟みますけど(^^;

 最後の方、白い術者を捕獲して引き渡した後、不在に気付いた高音ちんが念話で連絡してきてた訳です。 愛衣も一緒なら召喚も可能ですんで。
 しかし、10kmかぁ… 都市内でも外れから外れだと、呼べないって事になりそうだなぁ、正式な仮契約でも。


 
 

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