「…しまった」

 悔しそうに呟いて立ち尽くす。

 その身には長過ぎる刀を背負った彼女が立っているのは、つい先程 横島たちを飲み込んだ小さな広場の床の上だ。 どうやら、開閉式の罠のその上に、床の幻覚が張られていたらしい。
 ドンと踏みしめてみるが、まるで動く気配は無い。

「だから、ここは…」

 飲み込んだのは、嫌いだ、と言う言葉。

 その忸怩たる呟きは、決定的な危険は無いと知りつつも、彼女にとってはここが充分見過ごせない危地だからだ。
 この世に絶対なんて物は無い。 どんなに安全係数を上げようと、ダメな事態と言うのは起こり得るのだ。

 その時に備えて、影からの警備をしていると言うのに、ここ 図書館島はまるでソレを邪魔するように罠が張り巡らされる。
 張り巡ら『されている』ではなく、張り巡ら『される』だ。 腹立たしい事に、その位置は更新されるのだ、悪意を疑ってしまうほどに。

 今日もそうである。
 最初の2つの落とし穴は楓の合図もあって辛うじて間に合ったのだが、更なるこの罠は彼女を拒絶した。 探検部の活動の時には、こう言った目に遭う事が多い。 だから、気が抜けないと判っては居たのだが、何せ彼女には距離を取らねばならない理由が有った。
 例外と言えば、昨年度末の試験の時くらいか。
 あの時だけは、彼女に配慮されていたと言っても良いくらいで。 まぁ、学園長が差配してたのは間違いないから当然と言えなくもないが、楓以外には気付かれずに護衛の任を完遂出来た。

「とにかく、学園長先生にも連絡を取っておかないと…」

 懐から1枚の形代を取り出すと宙に打つ。
 更にもう1枚、探査用の符を取り出すと、彼女は急ぎ走り出した。

 

 

 


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GS美神×ネギま! CrossOver Story
  ざ・がーどまん
          その16   
 
逢川 桐至  


 

 

 

「もう、なんなんですか、ここは?!

 愛衣の口から零れた泣き言も、無理は無いと楓は感じていた。

「今日は、少ぉしシャレになってへんなぁ」

 一番慣れている木乃香にしても苦笑混じり。
 その点、楓が一緒だからか、風香は驚きの方が立って危険はそう感じてないようだ。 同年代とは思えぬ長い腕の中で、状況をナニするものぞとばかりにはしゃいでいる。 そんな彼女を、怯え混じりの史伽が諌めている。

 全体としてダウン気味のそんな空気を払拭しようと、楓は努めて明るめの声を出した。

「いやはや、まったく楽しませてくれる場所でござるな」

「ンな事言う前に、自力で身体を支えてくれぃ」

「む、拙者、そんなに重いでござるか?」

 とぼけて返すと、横島は「そう言う問題ちゃうわっ」と素で返してきた。

 まぁ、それも無理ない事。
 落下途中に狭くなった 幅1.2mほどのダクト状の空間で、彼はその両脚のみでこれ以上の落下を食い止めているのだ。 愛衣と木乃香とを抱えながら。
 その背の上に、当然の様にこれまた双子を抱えた楓が腰を下ろす形になっている訳で、横島にしても文字通り荷が重い。

「それもそうでござるな」

 そう言うと、器用に足を拡げて彼女は自力で身体を固定した。

「…あっ」

「ん?」

「いや、なんでもない」

 鍛えている筈なのに柔らかい重みの消失は、それはそれで残念だったらしい。
 愛衣が理解して向けてきたキツい視線に、愛想笑いを返しつつ横島は次の行動に移る。

「それはそれとしてっ。
 木乃香ちゃん、わりぃんだけど背中に移ってくんないか?」

「ん、ええよ」

 片腕で支えられ、反対側からの愛衣のフォローも受けて、なんとか彼の背中へと移動する。
 不安定な状態、しかも足元は暗い彼方となればかなり難しい行動だ。 だが、図書館探検での経験からか、彼女に慌てた様子は無い。

「愛衣ちゃんも」

「はい」

 意図を理解して、彼女もすぐに動き出す。

 二人ともとなれば、けして広い背中ではない……と言うか、はっきり言って狭かった。
 だが、横島としては正面に愛衣を抱かかえるのはツライ。 如何に対象外とは言え、柔らかくていい匂いのする美少女二人にサンドイッチされる、なんて状況ではいくらなんでも理性に自信が持てない。 今でさえ、意識して背の柔らかさを無視せねばならぬのだ。

 罪悪感などもあるが、こんな状況での暴走はあまりに拙過ぎる。

「降りるのでござるな?」

「あぁ、登んのはムリだからな」

「そやなぁ」
「ですね」

 ラッパ状に直径が狭まっての今だ。 上に行っても有る地点からは、それこそ魔法でも使わなければ登るのも難しくなる。
 何にしても選択肢なぞ無いのだ。

「ふむ…
 二人とも、背へ」

「は〜い」

 頷くと楓も鳴滝姉妹に移動を促す。

 横島は途切れそうな理性を総動員して下を見据える。
 上を見てしまうと見えてしまうからだ。 ナニガなどとは言うまでもなかろう。 上にいる彼女は、両脚で位置を固定しているのだ。 普通にしてる時ならば対象外と見れるが、おもむろに視覚へアピールされてしまったら、やはり色々拙い事になる可能性は小さくなかった。

 その事に楓も気付いたのだろう。

「拙者が先に行くでござるよ。 隠し通路でも有ればめっけものでござるし」

「じゃ、頼むわ」

「あいあい」

 自身への評価が低いだけに、誰かに任せると言う事には ほとんど抵抗の無い横島だ。 少し身体をズラしてさっさと空間を作る。
 そこを楓がゆっくりと降りて行く。

「お先〜」
「お姉ちゃん、動くと危ないぃー」

 そうやって入れ替わった所で、楓が上を向く。

「そうそう」

「どした?」

「この状態で抱き着いて来られると拙者も抵抗出来んので、それは勘弁して欲しいのでござる」

「せんわっっ!!

 何処かで見ていたのか、それとも単に出逢った時の発言への意趣返しか、そんな事を言われて思わず声を荒げる。
 だが、その背に「横島さんですし…」と愛衣が無情に呟いた。

「そーなん?」

「そうなんです。
 私のお姉様なんか、しょっちゅう抱き着かれたりしてるんです。 街中でも綺麗な女の人とか見付けると、付いて行こうとしたり抱き着こうとしたり。 カップルの人がいれば、男の人の方に殴り掛かろうとするし…」

 その度に、殴られたり操影術で吹き飛ばされたり縛りつけられたりしているのだが。

 そう言った点に於いては、特に懲りると言う事を知らない男だ。
 今や、高音たちの日常と言っていいほどの事になっていた。

「い〜や〜っ 俺のいいお兄さんなイメージ崩すんは やめてぇ〜!!
 つーか、俺はロリちゃうから、中学生に手ぇ出したりせんわいっ

 身も蓋もない発言に、愛衣は思わず溜め息をついた。
 しみじみと「本当、こう言うトコ無ければ…」などと呟きつつ。

「ん〜?
 せやと、ウチら3年やし、来年なったら?」

「そン時は、俺にも判らん」

「そんな事、堂々と言わないで下さいっ!!

 頭上のアホな遣り取りに、鳴滝姉妹は思わず囃し立て、少しずつ下降を続けている楓は、拙者は注意しておいた方が良さそうでござるな、と呟く。

 何にせよ、下がり気味だった空気が変わったのだ。 こんな気の抜けそうな一幕も、充分に意味の有る事だったと言えよう。
 鳴滝姉妹と木乃香は、どこかピクニック気分の様におしゃべりを始めた。

 そうやって一行がゆっくり下に向かう事、10分程。

「む…」

「なんかあったか?」

 楓の呟きに、残る5人の視線が下へと注がれた。
 通路は、柔らかいカーブを描いて曲がっている。 その先は、ここからでは良く見えない。

「横島殿、風香と史伽を暫しお願い出来まいか?」

「その二人くらいなら、まぁなんとか」

「では、お願いするでござる」

 ゆっくり横島が降りて来ると、彼の方へと二人を移動させる。
 横島の両の足に、双子がそれぞれしがみ付く格好で、なんとも不安定な状態だが仕方なかろう。

「そんでも、出来れば早めに頼むな」

「あい、判ってるでござるよ」

 身軽になるなり、さすがの動きで彼女は先へと進んだ。

「大丈夫ですかね?」

 横島への愛衣の問い掛けに、風香が答える。

「大丈夫だって〜、楓姉ぇは すっごいんだから」

「それより、横島さんは大丈夫ですかー?」

「まぁ、こんくらいならなんとかな。
 野郎っつーならともかく、将来に期待持てそうな美少女たちに音を上げたりしないって。 だから、ちゃんと掴まってろよ二人共」

 無意味にキランと口元を光らせ笑う。

「もぉ、本当に…」

「やっぱおもろいわぁ、横島さんて」

 木乃香的には、今のところの横島はアリなのだろう。
 そもそも出逢いの時からして、アレだったと言えばそれまでなのだ。

 だが、愛衣にしてみれば、横島の遠慮したい部分だったりする訳で。

「本当にそう思います?」

「ん? なんで? 変やろか?
 横島さんかてまだ高校生やしなぁ。 変に興味あらへんのもヤやなぁ思わん?」

 下手をすると親と同年代の男まで、見合い相手にされている木乃香だ。 恋愛に対する美化は薄い。
 却って横島の様子など、微笑ましさすら感じるくらいだ。

 そんな彼女の内心を愛衣が判る筈も無く、その逆に愛衣の認識を彼女が理解出来ている訳もない。

「あぁ、そっか… いつもの横島さん、見てないですものね」

「愛衣ちゃぁん…」

 少なくとも自分の見た限り、木乃香の前で横島は本性を晒した事が無いのだ。
 その事に思い当たって、愛衣は納得した。

「けどなぁ、横島さん。
 男やから仕方あらへん事やろけど、女の子は傷付き易いんよ。 そやから、あんま えっちぃのはダメやえ。 無理矢理なんて以ての外や」

「はぅ…」

 続けての言葉に、横島は思わず片手を胸に当てた。
 すぐ側、顔の横からのまっすぐな視線が痛い。

 強く糾弾されても、彼にはロクに響かない。
 男の口から出たのなら、どんな批難の言葉も意味が無い。
 だがしかし、こう言うのはダメだった。
 そこに好意があるのが伝わって、その上で可愛らしい女の子に諌められたら、それこそグゥの音も出ない。

「わいはぁ、わいはぁ…」

「ええねん、ええねん。 ほんのちぃとだけ抑えたらええねん。
 横島さんは横島さんやから、おもろいんやし ええんや。 ウチはそう思うえ」

「こ、木乃香ちゃ〜ん」

 言葉と共に抱き着いた腕に軽く力を篭められ、横島は感極まって泣きそうだ。

 その様子を、愛衣は驚愕と感心とで眺めていた。

 彼の手綱の取り方が、朧げながらも ようやく判った気がする。
 なるほどなぁと、胸の裡で強く頷いた。 するなと言われれば したくなるような、そんな子供な一面もあるのだろう、横島には。 だから、ただ叱ったり なじったりするだけではダメなのだ。

 木乃香が示したのは、彼を制し得る一つの在り様。

 そんな自分たちの誰もが出来なかった事を、容易にやってのけた彼女を愛衣は尊敬した。
 …まぁ、それだけ横島に手を焼かされている、とも言える訳だが。

「あ、あの、近衛先輩」

「ん、なに?」

「お姉様、って呼んでいいですか?」

「へ?」

 木乃香にしても意外で唐突な発言に、目をぱちくりさせる。
 とは言え、彼女の感性は並では無かった。

「なんやよぉ判らんけど、えぇよぉ」

「ありがとうございます」

 楓が戻って来たのは、ちょうどそんな所だった。

「な、なにがどーしたのでござるか?」

「おもしろかったよ〜」
「楓姉ぇにも、後でゆっくり教えてあげるー」

 横島は「わいは…」と呟きつつ涙ぐみ、その背では何やらおかしげな空気が舞い、双子は興味津々とそれを眺めている。
 ちょっと目を離した隙に何が起ったのか、いくらなんでもすぐには判るまい。

「まぁ、いいとして…
 この下でござるが。 緩やかな坂になった先に開いた口の向こうが、クッションらしき物の敷かれた小部屋になっているのでござるよ。
 拙者の目では罠も見当たらず、降りてみるも一興かと」

「そ、そうか…
 逆に怪しい気もすっけど、どの道 進むしかないしな」

 気を取り直しての横島の言葉に、楓も頷いた。

「なれば、拙者が先に行く故、問題無くば後は順に」

「あぁ、頼むな。
 と、ちょっと待った」

 コチラに向けた顔を、なにか?と傾げる。
 そんな彼女に、横島は懐から取り出した珠を投げ渡した。

「きれいでござるな… これは?」

「お守りだ。 念の為に持っててくれ」

「なるほど、それで『護』と書かれているのでござるか。
 有り難く受け取らせて貰うでござるよ」

 頭を軽く下げると、双子たちの「気を付けて、楓姉ぇ」との言葉に送られて、再び彼女は下へと消えて行く。

「何も無いといいんですけど…」

「まぁ、なんとかなるだろ」

 やがて小さく聞こえた軽い着地音。

「順に降りて来るでござるよ〜」

 更に少し経ってから、降下を促す声が聞こえた。

「それじゃ、ボクたちから行くよぉ〜」

「待ってよぉ、お姉ちゃん」

 我先に、二人は横島の足を離して滑り落ちて行く。
 そして聞こえた音が二つ。

「次〜」

 下からの風香の声に、「ほなら、次はウチが」と言って木乃香が。 更に、順に愛衣が続き、その二人の呼び掛けに、横島も重力に身を委ねた。

 ぼすん、と着地すると、そこは5m四方くらいしか無い小さな部屋。
 ただし、その雰囲気は地下3〜4階のソレではなく、その上の階と似た明るい造りで、その事一つ取っても不自然だ。

「なるほど、確かに罠どころか何もねぇなぁ…」

 降りてきた開口部の前に分厚く大きなクッションが置かれているだけで、他には何も……それこそ出入り口に至るまで何一つ見当たらない。

「さて、これからどうしたものやら」

 腕を組んで楓がニンニンとつぶやく。
 その瞬間だった。

『ようこそ、この愉快な図書館へ』

 どこからともなく声が掛けられる。

「誰だ?!

 その瞬間、正面の壁に、フードを被った人の姿が映し出された。

『私はこの地下図書館で喰っちゃ寝している怪しい司書。
 そうですねぇ… クウネル=サンダース、とでもお呼び下さい』
「だじゃれかよっ!?

 思わず横島が入れたツッコミに、『おぉ、ナイスです』と答えた後、言葉を続けた。

『久しぶりのお客さんに、思わず悪ふざけが過ぎました。
 お詫びと言っては何ですが、お茶とケーキを用意しているので皆さん奥へどうぞ』

 そう告げるなり、左横の壁 全面がズズズッとずり下がる。
 そうして広がった正面の壁の端に、自動と思しきガラス製のドアが現われた。

『入ってしばらくまっすぐお進み下さい。 大丈夫、ここには罠なぞ仕掛けてありませんから。
 では、お待ちしていますよ』

 言うだけ言って、プツンと映像が途切れる。
 6人は揃って顔を見合わせた。

「えっと、どうしましょうか?」

「行くしかないだろうな…」

 フードの下の素顔が美形だと察知したのか、嫌そうに横島は愛衣に答えた。
 どの道、相手の思惑に乗らざる得ないのだ。

「そやなぁ。 他に行けるとこ、あれへんし…」

「ソレにケーキが有るって言ってるよっ。 行こうよ、ねぇ」

「お姉ちゃん意地汚過ぎ…」

「そんな事 言うなら、史伽の分もボクが食べちゃうから」
「あ、それはダメですー!!

 乗り気な双子に、楓もふっと息を零して笑った。

「こうしていても埒は明かないでござるな」

「だよな。 しゃーねぇけど、行くか」

「はい」

 歩き出す横島と愛衣に続いて、残る4人も奥へと揃って足を進めた。

 

 

 

 【あの、その、続くそうです…】

 


 ぽすとすくりぷつ

 学祭期間外でも、図書館島の中では結構好き勝手やってそうだし、期末試験の時に出す予定だったらしいから、なら出しちゃえと(笑) まだちょっと私の中で消化しきれてないんで、言動がしっくりときてないんですけどね、アル。

 それはそれとして、イロイロとやってしまった感は強いなぁ、今回も…(苦笑)

 どーでもいいがこの数話、楓が動きまくるから愛衣が目立たないことったら。 今回、多少は挽回出来たかしらん?(^^;


 
 

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