魔法が秘匿されているこの世界。
 公に露出してる部分がそれより多いとは言え、気の遣い手もまた、達人の域になればやはり表には出て来なくなる。 遠当てや瞬動、そんな基本的と言われてしまう技でさえ、一般に在っては不可思議の領域なのだから当然と言えば当然なのだが。

 そうした表に出て来ない高手に出逢い、師事する事が出来た者は、だからやはり希有な例なのである。
 中村達也は、そんなレアな人間の一人だった。
 

 

 


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GS美神×ネギま! CrossOver Story
  ざ・がーどまん
          その10   
 
逢川 桐至  


 

 

 

「昨夜、俺はいつもの様に夜の鍛錬に出ていたんだ」

 独り言の様に話し出す中村をよそに、二人は少々パニくっていた。
 彼らの夜の見回りは、魔法使いとしての活動の一環でもあり、それは当然 秘匿されるべきものだからだ。

「こ、こう言う場合はどーしたら…」

「どうにかしないとオコジョでピンチですぅ…」

 こそこそと顔を寄せて相談するも、共にこんな状況への対応などした事が無いだけに、当然良い考えが出る筈も無い。

「そこで見たんだ。
 あからさまにあやしいおっさんたちを、手際良くノシていくお前らを」

 顔をグッと上げて、拳を握り締める。

「特に、警戒している相手の後ろに音もなく回り込み、一撃で意識を刈り取った横島の姿は忘れられない。 傍で見ていてすら見失いかけたあの動きには、背筋に冷たい物が走ったくらいだ」

 横島にとっての隠形は、戦闘面での価値なぞ然して無い。 あくまで、覗きの為に鍛え上げたのだから当然だろう。
 一撃で伸したのも、面倒くさくて楽な方法をとった、と言うだけなのだ。

「この分だと、最初のだけか、もしかして?」

「その可能性は大きいですね。 あの後は先生が一緒でしたし…」

 ひそひそ話す二人をよそに、少年は口角あわを飛ばしている。

「師匠の薦めで麻帆良に来たものの、中々出逢えなかったこっち側の人間。
 お前らを見掛けて、どれほど嬉しかったか」

 一般にはともかく、ある程度裏に通じた人間にとっては、麻帆良の特異性は隠せるものではない。 まして、魔法使いたちは隠しては居ても、その活動は精力的且つ多方面に渡っているのだ。

 実践を積もうと思うなら、実戦繰り広げられる紛争地帯に向かうか、さもなくばここの様な裏の人間の拠点へと赴くしかない。 だから、まだ途上である未成年が行くならば、どちらが良いかなど決まりきっている。

「けど、確か高音ちゃん、人払いの結界 張ってなかったっけ?」

「まれに、体質的に効き難い人が居るって話を聞いた事があります」

 人払いの結界は、絶対ではない。
 滅多に有る事ではないのだが、愛衣の言う様な理由で一般人が内側へ入って来てしまう事もまま有るのだ。 また、結界そのものの範疇外からなら、遠目にソコを見られることも有り得ない話では無かった。

 魔法少女や魔法親父の噂が絶えないのも、理由の一つに それがある。

「おいこら、そこっ 俺の話をちゃんと聞いてるかっ?!

「あー、はいはい。 聞いてる聞いてるって」

 ナゲヤリに答える横島にジロリと一瞥くれると、中村は言葉を続けた。

「で、だ。
 一つ訊きたいんだが、お前の流派って何だ? 動きだけじゃ、俺には判らなかったんだ」

「りゅーは?」

 言うまでもなく、そんなものは無い。
 強いて言うなら我流だろうが、逃げる為とか誤魔化す為の思考はすれど、戦って勝つ事だけを目的とした事なぞ無いのだ、横島は。 戦っても強いのは、こなして来た場数の所為であって、その為の体系だったナニカなぞ持ち合わせては居ないのである。
 まぁ、ちょっと見ただけでそんな事が理解出来るのは、それなりの腕と経験とを合わせ持った者だけだろうだが。

「なぁ、愛衣ちゃん。 あいつナニ言ってんだと思う?」

「えっ… 横島さん強いから、やってる武術は何なのかって…」

 数日なりとて一緒に過ごしている愛衣がこうなのだ。
 自身はそれなり程度で強くは無い、と考えている横島との認識差は大きかった。

 黙り込む彼の様子で誤解したのだろう。

「ふむ… まぁ、秘匿された流派とて少なくないしな。
 いいさ、ならば実力で訊き出すだけだっ

 言うなり軽く腰を下ろして右掌を後ろに引く。

「な、おまいナニかん…ぎゃうぇぇっ?!
「裂空掌っっ!!

 抗議を無視して、中村は初撃から己が必殺技を放った。

 風を切り裂いて宙を走るソレこそ、最も習練を積んだ得意技であり、最も高い威力を持つ技だ。 王道から言えば、ここぞと言うべき所で使う技である。 だが、相手が自身より格上だと認識している以上、出し惜しみは負けにしか繋がらないと言う事を彼は知っていた。

 愛衣を小脇に、横島は奇声を上げつつ避ける。

「いきなり、ナニしやがるっ!?

「くっ… この距離で避けるか、普通?
 さすがだな、横島っ」

「お、おまい…」

 心底嬉しそうな様子に、横島は目眩いを感じた。

 アレの同類だ。
 元の世界での腐れ縁、ちょびっとなら親友と呼んでもいい少年、伊達雪之丞。 あそこまで突き抜けては居なそうだが、それでも充分バトルジャンキーの範疇に居るのは間違い有るまい。

 タカミチら魔法教師たちの何人かを始め、こちらに来てからと言うもの少なくない人数のそう言った連中に出逢っている。
 好戦的なのがここでは普通なんじゃないかと、クラクラして来たのだ。

「…愛衣ちゃん」

 やる気満々の中村が、続けてのモーションに入るのを横目に、抱えたままだった愛衣を一旦下ろして声を掛ける。

「はい?」

「目を閉じてて」

 訳も判らぬまま、それでも彼女は目を閉じた。

 だらりと下げられた手に強くなって行く何かを感じて、中村が追撃を仕掛けようとしたその瞬間。

「サイキック猫だましィィっ!!

「ぐわぁぁっ?!

 視界が一気にホワイトアウトする。
 なまじ横島の動きを警戒していただけに、その輝きは彼の目をおもむろに貫いた。

「戦闘バカの相手なんぞしてられるかっつーんじゃ。 あ〜ばよ、とっつぁ〜んっ
 さ、逃げるぞ、愛衣ちゃん」

「えっ、キャ…」

 そう言い捨てるなり、三度 愛衣を抱えて森の中へと逃げ込む。

「な… 卑怯だぞ、横島ぁっ

 追おうとするが、未だ眩んでいる視界と あっと言う間に薄れてしまった気配とに、諦めて立ち尽くすしかなかった。

 そもそも横島に逃げに徹しられたら、どうにもならないだけの差が有るのは明白なのだ。

 今もそうなのだが、人を一人抱えてのハンデを有して尚、休憩していたからこそどうにか追付けたくらいなのである。 出足で離されては、どうにか出来る余地なぞ残っていない。
 そのコトもまた、中村は理解していた。

 ただ…

「くそぅ…
 だが、明日こそ。 明日こそは、必ず勝負して貰うぞっ

 前述しているが、どの道 二人は同級生なのだ。
 退学なり卒業なりするまでは、再戦のチャンスなぞ いくらでもある。

 

 

 

 そんな事にはすっかり気付いていない横島は、しかし、それから20分が経っても未だ木立の中を駆け回っていた。

「横島、さん… も、いい、んじゃ……?」

 本日二度目の耐久ジェットコースターに耐えかねて、へろへろの愛衣がそう声を掛ける。

 自身の足で動いてるならまだしも、不安定な姿勢で運搬をされているのだ。 魔法使いとして尋常ならざる動きが出来る彼女にしても、その負担は大きい。
 その上、横島の動きはどこか予測し難い部分が混ざっている為、気分的にも けして楽ではないのだ。 荒い運転の助手席が酔い易いのと似た様な物だ、と言えば解って貰えるだろうか。

「それが、さぁ…
 何や知らんけど、追っかけて来てんのが居るんだよな」

 ちらりと背後へ目をやっての、小脇に抱えたままの少女への返事。
 それに一番 驚いたのは、彼らの後を追い掛けている当の本人だった。

「…よもや、気付かれていたとは。 拙者も、まだまだ修行不足でござるな」

「のぁっ?!
「きゃっ?」

 すぐ側からの声に、横島の描く軌跡が鋭角に曲がる。

「ほぉ…」

 慣性を無視したその動きに、片目を少しだけ開いて感歎の声を上げたのは、あからさまな忍者装束の女性。
 なぜ顔を晒しているのか判らないが、いわゆるハンサムな顔立ちで豊満な体付きをしている。 ぶっちゃけて言えば、ビジュアル的には充分に横島のストライクゾーン範疇。
 なのだが…

「あのプロポーションを前に、なぜ食指が動かん…?
 ま、まさか男か… いやいや。 ならば子供か? さもなくば、無いと思うっつーかそうだと嫌だが婆ぁだったり…?」

「まだ14なれど、正真正銘 女でござるよ」

 横島の身も蓋も無い失礼な独り言に、彼女は対応に悩みつつも正直に答えた。
 こう女としては、誤解されたままで居られないものが有ったのだから、仕方有るまい。

「な…?」
「…えっ?!

 驚愕は、しかし愛衣の方が大きかったようだ。

 一つ違い。 年齢差は僅かにそれだけなのに、まず2カップは優に違う。 下手をすると、3つ年上の高音よりもナイスバディなのだ。
 どちらかと言うと小柄で平坦な彼女には、そのショックは小さくなかった。

「それはそれとして… 何故に、斯様な所へ?」

「なんつーか、ちょっちアレな連中に追っかけられてさ…
 そー言うお嬢ちゃんは、なんで俺らの後を?」

 既視感バリバリの口調に、横島の警戒はすっかり薄れていたものの、それでもやはり気には なる。

 実のところ、彼女が彼らを追い掛けだしたのは、修行の為に張っていた結界内へと問答無用に侵入してきた者たちに対する警戒からだった。
 不審者に気が付いて目視出来る所まで近付いてみれば、目に入ったのは中学生……自身も着慣れた制服を着ているのだから見ただけでそれと判る……の少女を小脇に抱えた青年だった。 すわ誘拐かと、彼女が気取られぬ様に追跡を始めたのは、衆目の納得を得られる理由だろう。

 まぁ、暫く観察している内に、当の少女自身イヤがっておらず、また後方に対して共に警戒している事に気付いて誤解と判った。
 だから、途中からこの追跡行の理由の比重は、普通ではない体力の持ち主に対する興味へと傾いていたのだが。

「お、お嬢…? こほんっ。
 その、拙者、この森から山にかけてで修行してるのでござる。 そこを突然 横切られたもので、つい…
 よもや、気付かれてるとは思いも寄らぬ事でござったが」

 忍びとして習練を積み、同年代の者の中では頭一つ飛び抜けている自負が、彼女……長瀬楓には有ったのだ。

 言うまでもなく、彼女は隠形に入ったままでの追跡をしてきた。
 無造作な素人じみた結界への侵入だったから、本気を出すまでもないと高を括っていたのは確か。 だがそれでも、容易に気付かれるほどの甘さも無かったつもりだった。

「ん〜 なんつーか、そーゆーの判っちまうんだわ。
 色々有ったもんでさ、はは…」

 苦笑いは、その『色々』の中身故。
 ナニからか、は ともかく、逃げるのが身上の横島だ。 当然、そう言った感覚は研ぎ澄まされている。

「あまり聞かれたくない事の様でござるな。
 さて、日暮れも近い故、拙者は これにて失礼するでござる」

 ぺこりと頭を下げて去る楓に、「おう、またな」と答えて横島も愛衣を連れて踵を返した。
 これからの事を思い浮かべてか、どこか嬉しそうにしている彼女に気付かずに。

 例に漏れず、進んで求めはしなくとも、戦闘を楽しめる心理構造の持ち主なのだ、楓も。
 横島にとっては、全く以ってありがたくない話だが。

 

 

 

「…時に、訊きたい事があんだけど」

 謎の忍者少女と別れ、来た道を暫く戻り。
 川沿いに開けた見慣れぬ場所で休憩しながら、横島は愛衣に問い掛けた。

「なんですか?」

 まだ冷たい川面に漬した足が、しかし心地好くて、彼女は気を緩めたまま聞き返す。

「俺らが今、どこに居るか判る?」

「…はい?」

 ばつの悪そうな顔での言葉に、愛衣は一瞬ナニを言われたか理解出来なかった。

「ほ、ほら…
 俺ってば、まだ地理に暗いから、愛衣ちゃんに案内して貰う事になってた訳じゃんか」

「えぇ、だから私が案な…
 って… えぇ〜〜っっ!!?

 愛衣の悲鳴が、赤く染まり始めた森の中に響き渡った。

 つまるところ、彼らは道に迷っているのだ、現在進行形で。

 なにせ、闇雲に逃げに逃げに逃げを重ねてきたのである。
 目の前の川の流れを追っても、視界の果ては見覚えの無い木々の中。 本人的には戻ってるつもりだったのだが、どうやら違う方角へと突き進んでいたらしい。

 勿論、愛衣にしても見知らぬ場所だったのは、言うまでも無い事。 そもそもこの迷走自体、彼女の意志とは無関係に行われていたのだから。
 周りを見渡せば、学園都市内とは言い難い辺縁の森の中。 こんな場所の土地勘まで愛衣の頭の中に入っていたら、却ってその方がおかしいだろう。

「いやぁ…
 俺だけなら、別にこの森ン中で一晩過ごしても大したこっちゃ無いんだけどさぁ、はは…」

 渇いた笑いと共に零された言葉に、改めて現状を認識した。

「お…」

「お?」

「お姉様ぁ、助けてぇぇぇ…」

 少し錯乱した後。
 念話でのSOSに迎えの手が現われたのは、とっぷり日が暮れてからの事だった。

 こんな事態を引き起こした横島に、高音とガンドルフィーニの雷が落ちたのは、あえて語るまでも無い事だろう。

 

 

 

 同日、4月9日夕刻。

 異国より来訪した一匹の小動物が、中等部女子寮の一室にて知己との邂逅を果した事で、また一つ物語の歯車が回った。

 

 

 

 【続きから、微かにラヴ臭がするわ】

 


 ぽすとすくりぷつ

 平日でも、さんぽ部の活動の無い日は、普通に修行してるだろうしなぁ、と。

 ちなみに、最後の記述ですが、ネギよりも先に出て来ちゃいそうなんで、念の為 触れました(^^;
 ネギ達はネギ達で、原作通りの経過を踏んでますよ、って明言しときたかった事もありますが。


 
 

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