「…あ、そうそう言い忘れていたんだが」

「なんでしょうか?」

 白み始めた空の下。 ひとまず今日の仕事を終えてさて解散、と言う所でガンドルフィーニが振り返った。

「ここしばらく桜通り一帯は別口の方たちが入るから、君らはなるべく近付かない様にしておいて欲しい」

「そりゃまた、なんで?」

 聞き返した横島に、高音が苦笑混じりに答える。

「連携して作業してる方々の中に入り込んだら、邪魔になるだけじゃありませんか。
 ただでさえ、あなたはほとんどの方と顔合わせしていないと言うのに」

「あぁ、そりゃそっか」

「ま、そう言う事なんで、特に横島君は気を付けて欲しい」

 まだ、今日でたった5回しか行われていない横島との夜勤……しかも、ガンドルフィーニは手の離せない用事で一度参加出来なかった為に実質は4回……で、彼は横島には注意を繰り返す必要がある事を学んでいた。 ついつい、ふらふらと動き回るのだ。 …主に女性の為に。
 まぁ、桜通りは中等部のエリアなので、近付く可能性は少ないだろう。

「へいへい。
 …んで、そんだけっすか?」

「あぁ。 くれぐれも気を付ける様に」

 話は終わったとばかりに、横島は欠伸を一つした後、両手を上げてぐっと伸びをする。

「横島さん、ご苦労様でした」

「おぅ、愛衣ちゃんもな」

 ぺこりと頭を下げる彼女に相好を崩す。

 今期から中学2年になる愛衣は、言うまでもなく彼の求愛対象には入らない。 だから、逆にお互いへの当たりは けして悪くなかった。
 なので、高音絡みでバカな事をしない限り 元々礼儀正しい少女の事、横島と愛衣の仲はそう悪いものではないのだ。 勿論、彼の行動自体に嫌悪感が無い訳ではない。 しかし、直接被害に遭う訳でもないし、その所作は滑稽で失敗ばかりだから、時として微笑ましさすら感じても居た。

 監視体制の一環でこの配置を決めた学園長たちにとって望外の事ではあったが、巧くいっているに越した事は無い。

「そいじゃ、高音ちゃんも、おつかれ」

「えぇ、横島さんも。 では、また明後日に。
 さ、帰るわよ、メイ」

「はい、お姉様」

 挨拶を交わしてそれぞれ帰途に就く少年少女たちを、ほっとしたような目でガンドルフィーニは眺めていた。

 

 

 


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GS美神×ネギま! CrossOver Story
  ざ・がーどまん
          その7   
 
逢川 桐至  


 

 

 

 何かを追い掛けて、120そこらしか無さそうな小さな人影が、有り得ない早さで走っていく。

 宵闇に溶ける影に、逡巡したのは ほんの一瞬。

「ごめん、木乃香。
 やっぱりあのバカ 心配だから行ってくるわ。 後、お願いねっ」

 そう言い置くと、長いツーテールを靡かせて少女……神楽坂明日菜は、脇目も振らず駆け出した。 少々どころでは無い距離を離されているのだ。 これ以上離されたら、見付ける事すら出来なくなる。
 それ故に、女子中学生にしては高過ぎる脚力を全開に走り出す。

「ちょ… アスナ?!

 ほぼ全裸と言っていい小柄なクラスメートを抱え、残された長い黒髪の少女……近衛木乃香が声を掛けた時には、もう点の様に見えるほど彼女は遠ざかっていた。

 そんな非常識さには慣れているのか。 木乃香は着ていた制服のベストを脱いで、全裸の少女の身体を少しでも隠そうと覆い被せる。
 と言っても、肩口の一部と靴下としか残っていないから、焼け石に水もいいところだったが。

「…はぁ。
 ウチ一人でどないせぇゆーんよ…」

 柔かな常夜燈に照らされた満開の桜が、周囲を微かに染め上げた中、ぽややんとした顔立ちのまま彼女は途方に暮れた。
 走っていった明日菜ほどの力が有れば、一人で抱え帰るのも けして難しくなかろうが、体力にさして自信の無い身、似た様な体格の少女を背に負うのさえ難しい。

 仕方なく、先に別れたこの少女のルームメイトを呼び出そうと携帯電話を手にした時、その人影は現われた。

 

 

 

「さぁて、ナニ食うかな…」

 食堂で食べればタダなのだが、何せそろそろ1週間に渡って利用しているし飽きがきていた。
 それと味が良いのはいいのだが、賄いの人たちが年配で占められているのも横島的にマイナスである。 職員……それも独身男性対象の寮だけに、華やかさがまるで無い。 しかも、その中の唯一の学生だから時間帯も合わず、結果 常に一人での食事となっていたから尚更だ。

「もっかい、アソコ行ってみるかなぁ?
 なんか夜もやってるっつってたし」

 今日は学園都市のほとんどの学校の始業式の日。
 当然の様に初めての顔ばかりの初登校だったが、さっそく何人かの遊び仲間と呼べる面子を横島は得ていた。 癖は強いが、元々人当たりは悪くないのだ。 それに男子校と言う事で女生徒が居ない為、彼が馬鹿をやっても 皆そのまま受け入れる事が容易い事もあったのだろう。

 そうして付き合いの出来た連中と、昼に行ったのが学園都市名物『超包子』。
 スタッフのほとんどが学生だけに、ランチタイムの営業は今日までなのだとかで、引っ張られる様にして行ったのだ。 これも付き合いと、流されるまま出掛けたソコで食べた肉まんは、今まで食べた物が偽物にしか思えないほど美味しかった。 しかも安い。
 範疇外とは言え店員の質も高く、連れて行ってくれた連中に心底 感謝したほどだ。

「他のも食ってみたいしな…
 よし、仕事前の腹ごなしは決まりだな」

 鼻歌交じりに目的地へと歩き出す。
 まだ春先ともなれば、6時くらいはもう既に暗い。 常夜燈の照らす中を迷う事なくようよう歩く。

 警備の仕事で周った辺りと、買い物などで日中動き回った場所の把握は出来ている。 元々、方向感覚なども優れているので、そう言った事は容易いのだ。
 但し、地図と照らし合わせて覚えた訳ではないので、地名はうろ覚え……と言うよりほとんど頭に入ってなかったりするが。

 なので、今 足を踏み入れた桜並木が、学園都市内でも有数の名所でそれ故に『桜通り』と呼ばれてるなんて事すら、彼は知らなかった。

「ん? あれは…」

 横島アイが、1本の桜の木の根元にしゃがみこむ人影を発見した。

「美少女。 しかし、惜しい、中学生以下。 今後の成長が待ち望まれる」

 ガチャカチャチーン、と効果音が聞こえそうなノリで、次々言葉が流れ出る。
 細部も見えていないのに、そんな判断が下せるのは一体どう言う訳だろう。

 ともあれ、走り寄って警戒されるのも嫌なので、変わらず鼻歌交じりに横島はそちらへとゆっくり歩いていった。

「あのぉ…」

「ん? どうしたんかな、お嬢ちゃ… どわぁあぁっ!!

 紳士っぽく振る舞おうとした横島だったが、しかし背後で倒れていたもう一人の姿に声を上げてしまった。
 そこに居たのは、小さな布きれで、際どい部分だけ隠された未成熟な果実。 下手に見えない分だけ扇情的で、もうちょっとでダメなスイッチが入ってしまう所だった。

「わいはロリコンやないロリコンやないロリコンやないんやっっ

 げしげしと木の幹に頭突きをかましては、血をドブドブと吹き流すそんな彼の姿に、少女……木乃香は、声を掛けて失敗したかな、と冷や汗を流す。
 そんな嫌な空気の中。

「コレっ、早くっ」

 ババっと着ていたGジャンを脱ぐと、横島は木乃香へと押し付けた。

 彼の言わんとする事に気付いて、彼女は「おおきになぁ」と受け取り、傍らの少女にいそいそと着せ出す。
 上半身はベストで、下半身は簡易の巻きスカートと化したGジャンでそれぞれ覆われ、横島もようやくホッと一息吐いた。 ある程度大まかに隠されれば、相手はメリハリのそう大きくない子供だ。 自分をしっかり持つ事も、なんとかこなせた。

「一体なぜにこんな…?」

「ウチもよー判らんのですわ。
 あ、ウチ近衛木乃香 言います。 お兄さんは?」

「俺は横島忠夫。 さすらいの正義の味方さっ」

 呪文唱えながら血を流しといて、今更格好付くものではないが、木乃香的にはアリだったらしい。

「わ〜
 そや、したら ちょうお願いあるんやけど、聞いて貰えはります?」

 パチパチと手を叩いた後、小首を傾げながら彼女は横島を仰ぎ見た。

「ん?」

「この娘、ウチの寮の部屋に連れて来たいんやけど、ウチ一人やと無理なんです」

 傍らの少女に目をやった後、木乃香は手を合わせて彼に向かってお願いのポーズを取った。 見映えの良い少女だけに、なかなかに可愛らしい。 その気の無い横島もくらっと来たくらいだ。

「あ、あぁ、そんくらいならいいぞ。
 メシ食いに行こうと思ってただけで、別に時間が無い訳じゃないしな」

 そう言って しゃがみこむと、横島は気を失っている少女を背負いだすと、すぐに木乃香もそれを手伝う。

「男の人って、やっぱり力あるんやなぁ…」

「ま、バイトとかで鍛えたからな。 あの日々を思えば、この娘の一人くらい軽い軽い」

 意識して背中の柔らかさを頭から排除すると、苦笑いしながら答える。
 美神事務所でいつも背負う荷物に比べたら、この少女の体重なぞ、いいとこ半分越えたか程度だ。 比喩抜きに軽い。

「えと、こっちです」

 そう言って示された方へと、横島は歩を進めた。 その足取りは本当に軽くて、背の少女を全く苦にしていない。
 そんな彼に何を話したらものか、木乃香はどうにも言葉が出て来ない。 ただ、ちらちらと見遣る視線が繰り返され、しばらくして横島もそれに気が付いた。

「ん?」

「あの… そや。
 そぉゆーたら、食事ってどこ行かれはるつもりやったんです?」

「ん〜? 知ってるんじゃないかなぁ?
 も少し先に行ってさ、あのバカデカい木の方に有る広場に、屋台が出てるだろ」

 歩きながら、顔で世界樹の方を指し示す。

「あ、超さんトコの」

「チャオ、さん? もしかして、知り合いが居るんか?」

「ウチのクラスメートの子ぉがやってはるんですわ。
 あそこ美味しいから、ウチらもたまに食べにいきますん」

 ただでさえ都市内でも有名な屋台なのに、その上クラスメートがオーナーをしているのだ。 木乃香が知らない筈が無い。
「やってって… じゃあ、あの店の名前、 ちょう ほうこ
「やってって… じゃあ、あの店の名前、『超 包子』って人名だったんか?!

 そんな言葉にくすくす笑って彼女は訂正を入れた。
「ちゃう、ちゃうて。  チャオバオズ
「ちゃう、ちゃうて。 『超包子』読むんや、ゆーてましたえ」

「おぉ、なんか本格的っぽい名前やなぁ」
「ちなみ言うたら、超さんは チャオリンシェン
「ちなみゆうたら、超さんは 『超 鈴音』 て言う名前やから」

「へぇ〜 留学生かなんかか?」

 宙に指で字を書きながらで聞かされたその名は、どう聞いても日本人のモノとは思われない。 である以上、留学生か帰国子女のどちらかだろうと考えた。 前者と踏んだのは、料理が本格的だったからだ。

「そうです。 ウチのクラス 特に多いんや。 他に3人もおるし」

「ここはなんか規模が無駄にデカいもんなぁ…
 ま、でも、俺もここ来る前に居たトコに外人一人いたし、ちょい特殊なのも何人か居たから、慣れてるっちゃ慣れてるんだけど」

 さすがに、クラスメートに妖怪ってのは無いだろうと胸の中で笑う。
 実際には、木乃香のクラスには幽霊と吸血鬼とロボット、魔法使いに退魔師に忍者が在籍してる訳で、ある面、横島のソレと比べても、十二分に特殊だったりするのだが。

「あ、あっちです」

 並木から道を外れ、やがて見えてきた大きな建物を木乃香は指差す。 横島の顎が、がくりと下がった。
 高級ペンションもかくやとばかりの、金が掛かった立派な造りをしているのだ。 むべもない。

「なんちゅう建物やねん…
 木乃香ちゃん、随分いいとこに住んでんなぁ」

「そぉやろか? ウチらの学校、大半がここに住んどんやけど」

「ちぃっ、これだからぶるじょわじぃってヤツぁよぉ…」

 ちょっと不貞腐れる横島に気付かず、木乃香は更に中へと彼を誘導した。

「おいおい、俺まで中入っていいんか?」

 コレが女子校の、ならば請われなくても侵入する所だが、あくまでここは女子中等部の寮である。

「そやかて…」

「そりゃそっか。
 ほんじゃ、人目に付かない内にとっとと入ってとっとと退散すっか」

 こそこそと辺りを窺いながら、二人は寮内を進み階段を登る。
 無事に部屋に着くと、指示に従って背の少女を、横島はベッドへと下ろした。

「ほんま助かったわぁ。 おおきにありがとさんです」

「おう。 木乃香ちゃんみたいな可愛い娘の頼みやったら、なんぼでも聞いたるって」

 お世辞ではないと判ったか、「ややわぁ」と木乃香は嬉しそうに笑った。

「っと、あんまし長く居るのもなんだから、俺はとっとと行くわ」

「え? 茶ぁくらい飲んでったかてえぇのに」

「ま、そーもいかんだろ、やっぱし」

 繰り返すが、範疇外の女子中学生。 部屋の中のどこか甘ったるい雰囲気も、あと3年歳が上ならともかく、今はまだ居心地悪さの方が上回る。

「そんなら、玄関まで送りますわ。 ウチ一緒やったら、言い訳もつくやろし」

「おぅ、頼むわ」

 そうして、行き同様、人目に付かぬ様 エレベーターを避けて階段を降りる。

 降りきって、さぁ、と言う所でその声は掛かった。

「横島さん? なんでここに?!

「愛衣ちゃん?!
 …って、愛衣ちゃんもここに?」

 一部の例外を除き、全寮制なのだ、麻帆良学園女子中等部は。

「いくら横島さんだからって、まさか女子寮に侵入してくるなんて…」

「おいおい…」

「えっと… その、違うん…ですか?」

 上目遣いに見遣る彼女に、横島はがっくり肩を落として壁際にしゃがみこみ『の』の字を書き出した。

「いーんだいーんだ、どーせ俺はセクハラ野郎さ。 ははは… 愛衣ちゃんにまで、そんな目で見られる変態さっ。 ぶつぶつ…」

「えっ? あの…」

「ちょお、えぇかな?」

「はい?」

 その時になって、愛衣は初めて木乃香に気付いたらしい。

「ウチ、3−Aの近衛木乃香 ゆーんやけど」

「あ、私、2年の佐倉愛衣です」

 年上と知って、愛衣は即座にぺこりと頭を下げる。
 釣られて頭を下げた後、木乃香は事情の説明を始めた。

「あんなぁ。 横島さん、ウチが困ってたん助けてここまで連れて来てくれはってん。
 そやから、不法侵入とか、そーゆーんとちゃうねん」

「そーなんですか?」

「そーなんや。
 …ん、なんや変?」

 にこにこと聞き返す木乃香に、困惑を滲ませつつ笑みを返す。

 いまだ落ち込んでるぶつぶつやってる横島と、独特のテンションを持つ木乃香とに挟まれて、愛衣はどう対応したらいいか判らず動けない。
 横島が我に返るまで、誰にも見つからずにいれたのは僥倖な事だった。

 

 そんな締まらぬ出逢い。 だが、これが後に大きな意味をもってくるなんて、この時は3人の誰もが気付いていなかった。

 

 

 

 【続くです】

 


 ぽすとすくりぷつ

 ほんの少しずつだけど、量が増えて来てるなぁ… ベタテキストで10kくらいを目処にしてるんだが、量の調整が微妙に狂ってきてる気がする。 木乃香のなまりもなんかしんどいし…(T_T

 それはさておき。
 あの女子寮の部屋って、学年変わる度に引っ越ししてるんですかねぇ? 配置図、学年分けされてんだけど(苦笑) でも、3年になっても変わった節、無いしなぁ…

 後、明日菜の行動ですが。 原作においては、おそらく木乃香と二人で運んでたんだと思う……明日菜たちの部屋だったっぽいから……んです。 ただ、ンなことしてたらネギんトコ間に合わないよなぁ、と思いまして(^^;
 ちなみに、刹那は手助けするかすぐそばで迷ってました。 横島が通りがかったんで、出て来ませんでしたけど。 桜通り担当の方たちは、勿論エヴァとネギを追っかけてます。


 
 

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