独断と偏見の
まんがレビュー 2006年9月

2006年9月3日(日)
タイトル カラスヤサトシ
著者名 カラスヤサトシ
巻数 全1巻(アフタヌーンKC)
出版社 講談社
発行年 2006年
ジャンル 日常体験4コマまんが
評価 ★★★  :読了後は気落ちしてしまいます。
ストーリー

 まんが家カラスヤサトシ氏の周辺で起こった出来事や、本人の体験談を元にした4コマギャグまんが。

コメント

 実は先日、ちょっと変わった銭湯に入ってきました。とは言っても、銭湯自体はどこにでもあるような普通の銭湯です。では、何が『ちょっと変わった銭湯』なのでしょうか。

 それは、その銭湯がある場所です。この銭湯は、中部国際空港、通称セントレアのターミナルにある展望風呂「宮の湯」です。

 空港の中に銭湯があるというのは、一風変わっていますよね。中部地方では、このセントレア開港当初からこの銭湯が話題になっていました。開港当時は、入るのに並ぶ必要があったほどの人気でした。

 で、前々からこの銭湯に入ってみたいと思っていました。でも、銭湯にはいるためだけにセントレアに行くのもばかばかしい話です。先日、長崎に住む友人H氏がこちらに遊びに来たので、その帰りの見送りの際に、一緒にこの銭湯に入ってきました。

 で、実際に入ってみると、そこでは普通の銭湯とは異なった風景が目に入ります。それは、湯舟に浸かっている人、皆が皆、窓の外を眺めていることです。

 この窓からは空港の滑走路が見え、飛行機が実際に離着陸している様子を湯舟に浸かりながら楽しむことができます。みんな、これを楽しみにこの銭湯に入っているのですね。

 私は普段、眼鏡を外してお風呂に入ります。しかし、ここでは眼鏡を外していると外の風景が全く分かりませんでした。そこで、眼鏡をロッカーまで取りに行き、再度お風呂に入りました。せっかくの売りである飛行機の離着陸が見えないのは、悔しいですからね。

 眼鏡をつけて窓を眺めたところ、無事に飛行機が離陸するシーンを見ることができました。大満足です。お風呂で、飛行機の離着陸を見るというのは、ちょっと不思議な体験でした。

 余談ですが、私のような人が多いのでしょうか。普通の銭湯よりも、眼鏡をつけて入っている人の率が高いように感じました。

 そんなわけで、お風呂に入っているシーンが登場する、カラスヤサトシ氏の「カラスヤサトシ」を紹介したいと思います。

 この「カラスヤサトシ」のコミックは、著者の「描きたい」という情熱がいっぱいに詰め込まれた一冊です。中身を読まずとも、コミックを眺めているだけで、その情熱があふれ出てくるのを感じ取れます。

 まず、帯です。普通は他のまんが家や著名人などが、この帯に推薦文を書きます。しかし、この「カラスヤサトシ」では著者本人が、
「アフタヌーンで一番最初に読んでいます! カラスヤサトシ」
と自分の作品の推薦文を著者自身が書いています。著者本人が帯で推薦するという情熱半分、ギャグまんが家としてのギャグ半分といったところでしょうか。

 次に、カバー裏です。カバーをめくったコミックの表紙及び裏表紙に描き下ろしのまんががあるのは、他の作品でも結構見かけますよね。しかし、この「カラスヤサトシ」では、カバーそのものの裏側にもびっちりと4コマまんがが収録されています。

 本当にカバーの裏側まで何かが描かれているというのは、麻宮騎亜氏の「サイレントメビウス」のコミック以来、久々に見たような気がします。「サイレントメビウス」では単なるイラストが描かれているだけでしたが、こちらは4コマまんがが6本も収録されています。

 さらに、カバーの左右の折り込みの部分にも1本ずつ、カバーの裏表紙部分にも1本と、計9本の描き降ろし4コマまんががカバー単体に収録されています。すごいですね。

 まだまだあります。石川雅之氏の「もやしもん」第3巻では小口のところ絵が描かれていました。この「カラスヤサトシ」でも同様の方法を使って、著者の自画像が小口に描かれています。

 これで終わりではありません。コミックのページをめくると、4コマまんがの枠外にパラパラまんがが収録されています。ページをパラパラとめくると、カラスヤサトシ氏の自画像が、上の方へ移動していくのが見られます。

 本当に、できることは何でもふんだんに行っているといった感じのコミックです。これほどまでに、著者の情熱がこめられているコミックは珍しいと言えるでしょう。

 では、内容を見ていきましょう。

 実はこの「カラスヤサトシ」のコミックですが、読むとちょっと鬱になります。吾妻ひでお氏の「うつうつひでお日記」の2ページにおいて著者が、
「一気に読むと鬱になるかもしれないので注意して下さい」
と描いていました。しかし、「うつうつひでお日記」を読んで、鬱になるようなことは一切ありませんでした。

 しかし、この「カラスヤサトシ」では、内容がギャグまんがであるにもかかわらず、読み終わった後、少々鬱になります。鬱になるというのは大げさかもしれませんが、読了後はどこか寂しさを感じると言いますか、なんか気落ちしてしまいます。

 カラスヤサトシ氏自身は大阪出身ということで、本人のサービス精神が旺盛なのは4コマまんがの内容からも見て取れます。大阪人特有の何か面白いことをして皆を笑わしてやろう、という気概があります。

 例えば、81ページの就職のグループ面接の話では、一番最後の席のことを「オチの席」と表現するあたり完全に大阪人ですね。

 しかし、そのサービス精神とは裏腹に、そのサービスの空振り気味の部分や、空振り気味に対する自嘲のギャグが、読み手を落ち込ませる原因となっています。なんと言いますか、まるで世の中の全てが自分をいじめているように感じられてしまいます。

 この「カラスヤサトシ」は、そんな一風変わったギャグまんがです。もちろん、4コマまんがの1つ1つは面白いんですけどね。

 そんなわけで、ギャグまんがだけど、読み終わった後にどこか気落ちしてしまう、そんな一風変わった4コマまんがを読みたい方にお薦めしますよ。内容については、人によってかなり好き嫌いがあるとは思いますが…。

 蛇足です。この「カラスヤサトシ」のコミックでは、本当に色々なことを行っています。個人的には、どうせここまでやるなら、帯の裏側にも4コマまんがを収録して欲しかったです。予算の関係上、そこまでは難しいかもしれませんけどね。

Amazonで「カラスヤサトシ」を検索

2006年9月8日(金)
タイトル リンダ
著者名 夏村シュン
巻数 全1巻(ワイドKC)
出版社 講談社
発行年 2005年
ジャンル 人生の模索
評価 ★★★  :生きる意味を見いだせない方へ。
ストーリー

 ヘルス嬢をしているリンダは、生きている意味を見いだせなかった。そんなリンダには肉体関係を持たない彼氏がいた。その彼氏と過ごすことに、リンダは少しずつ生きる楽しみを見つけていくのだった…。他にも、読み切り「トミタ・コウジ」を収録。

コメント

 常々、不思議に思っていることがあります。なぜ、洗濯する前にはあんなにも洗濯をしようという気力に満ちあふれていたのに、いざ洗濯機から取り出して干す段階になるとやる気が無くなってしまうのでしょうか。

 おかげで、洗濯機が回り終えてから、実際に干すまで半日以上掛かることもまれではありません。ひどい時には、干すまでに丸一日以上掛かることももあります。こんな時は、もう一度洗い直しをしたりするため、2度手間になっていたりします。

 これは、私に乾燥機を買えということなんでしょうか。と言っても、お金もスペースも無いので買うことはないでしょうけど。それに、乾燥機を使うと電気代も余分に掛かりますからね。太陽のもとで乾かした方がお得ですね。

 みなさんも、こんな風に途中でやる気が途切れてしまうことはありますか?

 そんなわけで、生きる気力が無い主人公が登場する、夏村シュン氏の「リンダ」を紹介したいと思います。

 前々回、夏村シュン氏の「ネコ」を紹介しました。この時、機会があれば夏村シュン氏の他のコミックも読みたいと思っていました。そして、意外に早くその機会に恵まれました。たまたま寄った本屋さんに、この「リンダ」が置いてあったのです。

 現在、夏村シュン氏のコミックは「赤い玉が出るまで」「リンダ」「ネコ」の順に3冊発行されています。私はちょうど、この逆の順に読んでいることになります。本当は、古い順に読みたいところですが、新しいものの方が手に入りやすいため仕方がないですね。

 さて、「リンダ」を読み終えると、「ネコ」よりも面白いと感じました。物語の練られ方や人間関係の複雑さでは「ネコ」の方が上です。しかし、物語全体として捉えてみると、この「リンダ」の方が完成度が高いように思えました。

 理由は、多分以下の通りです。「ネコ」では、株やマネーという題材にあまり詳しくない著者が、それをうまく消化しきれなかったのではないでしょうか。「ネコ」しか知らなかった時はそれほど感じませんでしたが、「リンダ」を読み終えた後はあきらかに完成度の不足が感じられました。そのため、作品としては「リンダ」の方が面白く読めました。

 さて、この「リンダ」ですが、一見「恋愛」がテーマのように見えます。それも、「風俗嬢の恋愛」と。

 しかし、この作品の実体は「恋愛」がテーマではありません。確かに「風俗嬢の恋愛」というものを取り扱っていますが、それがテーマとして扱われているのは第1話の「観覧車」だけであり、しかもこの第1話でそのテーマは完結しています。

 では、一体何がこの作品のテーマなのでしょうか?それは、
「生きる意味とその模索」
です。

 今の世の中明確に自分の生きることの意味を持っている人は少ないのではないでしょうか?それこそ、
「死んでいないから、生きている」
と、捉えている人がいても不思議ではありません。

 以前いた会社の同僚で、こう言った人がいました。
「30代ぐらいで、交通事故かなんかでポックリと死ねたらな」
その人は、別に何かに悩んでいたり、苦しんでいたりするわけではありませんでした。仕事は自分から進んでやるタイプではなく、言われたことを淡々とこなすタイプでした。給料をもらうために仕事をやっている、と割り切ったタイプの人間ですね。

 多分、淡々と日々を送り、また特に生きる事への意味や執着がなかったのでしょう。そのために、このような言葉が出てきたのだと思います。今の世の中、このように惰性で生きている人も多いのではないでしょうか?

 そして、この「リンダ」の主人公のリンダもそうでした。生きる意味を見いだせず惰性で生きており、意欲や目標を持って生きている人を冷めた目で見てしまう、そんな人間でした。

 ただ、物語が進むにつれ色々なことを経験することにより、生きることの意味とまでは言えないものの、生きることの楽しみを見つけることができました。

 この「リンダ」は、今の世の中に蔓延している「生きる意味を見いだせない人」をテーマにしている作品でした。

 これは、同時に収録されている読み切りの「トミタ・コウジ」でも同様です。生きていると言うことが当たり前と思っている、もしくは死ぬということはTVの中だけの話だと思っている人に、死を身近に意識させた物語です。死を意識させることは、おのずと生も意識させることになります。なぜなら、死と生は表裏一体だからです。

 そんなわけで、「生きることの意味とその模索」をテーマにしているこの「リンダ」は、今自分が生きていることの意味を見いだせなかったり、他人がなぜあんなにもエネルギッシュに生きているのか分からない人にお奨めしますよ。

Amazonで「リンダ」を検索

2006年9月18日(月)
タイトル 冒険少年
著者名 あだち充
巻数 全1巻(BIG COMIC SPECIAL)
出版社 小学館
発行年 2006年
ジャンル 悔恨ドラマ
評価 ★★★  :少々盛り上がりに欠けます。
ストーリー

 「子供の頃の悔恨を、大人になって晴らす」、もしくは「大人になったことで失った子供の頃の純粋な心を取り戻す」をテーマにした読み切り作品集。7話収録。

コメント

 基本的に夕飯は家で食べています。でも、忙しい時や、体調が優れず作る気力がないときは、外食で済ませています。

 そんな中、先日も少々忙しく、作る暇がありませんでした。そこで、同居人H氏を車で迎えに行き、その帰りにどこかで食べることにしました。

 最初は、いつもいっているうどん屋さんにしようかと思いました。しかし、なんとなくうどんの気分ではありませんでした。ふと、道端を見ると、サイゼリヤの看板が目に入りました。

 ここ何年かサイゼリヤには行った記憶はありませんでした。そこで、ふと行きたくなり急遽サイゼリヤで夕飯を食べることにしました。さて、久々に中に入った感想としては、
「なんで、女子高生がこんなにいるの?」
でした。

 理由は分からないのですが、私が入ったお店はお客に占める女子高生の割合が大きかったです。すでに夏休みを終わっていますし、時間は20時をまわっています。普通に考えると、各自自分の家で食べているような気がします。でも、ここではみんな友達同士でおしゃべりをしながら食べていました。

 おかげで、非常に姦しかったです。

 メニューを注文し、それらが来るまでなんとなく手持ちぶさたでした。すると、同居人H氏があるものをみつけました。

 それは、子供用のメニューなのですが、そこには食べ物の原産地を載せたイラストが2つありました。両方とも同じような絵なのですが、細部が違っていて、間違い探しになっていました。10箇所の間違いがあるとのことでした。

 で、同居人H氏と私はその間違いを探し始めました。7箇所ぐらいまでは簡単に見つけることが出来ました。しかし、そこから次のをはなかなか見つけることが出来ませんでした。

 注文したメニューが来て、ひとまず中断しました。しかし、H氏は気になるのは立てかけたその子供用メニューをちらちらと横目で見ていました。食べ終わるまでに、さらに2箇所ほど見つけることができたものの、最後の1つがどうしても見つけられませんでした。

 私は、食後のコーヒーを、H氏はカプチーノをお代わりしつつ、また血眼になって探し始めました。ここまで来ると、2人ともこれが見つからないと店を出るに出られません。

 そして、とうとう最後の1つを見つけることが出来ました。念のため、最初から数え直したところ、ちゃんと10箇所ありました。

 子供用メニューということで子供向けのものだったのでしょうけども、大の大人2人がかなり夢中になった間違い探しでした。そして、食事の味はともかく、2人とも達成感を後に店を出たのでした。

 そんなわけで、大人になって童心に返るということがモチーフの1つである、あだち充氏の「冒険少年」を紹介したいと思います。

 この「冒険少年」は、1998〜2005年の間に1年に1回のペースでビッグコミックオリジナルに掲載されたものをまとめたコミックです。1年に1回の掲載であるため、最初と最後では7年の歳月がありますが、絵からはそれを感じさせません。

 さて、以前にも書いたかもしれませんが、一般的に少年まんがを描いていたまんが家も年齢を重ねるに連れ、青年まんがへ活躍の場を移します。細野不二彦氏、星里もちる氏、原秀則氏などが代表的ですね。

 しかし、中には少年まんがにこだわるまんが家や、移行に失敗しそのまま少年まんがの舞台に居続けるまんが家もいます。あだち充氏は、この後者に該当すると思われます。

 「タッチ」「ラフ」以降、あだち充氏は年齢的にも青年まんがに移行するべきでした。事実、「ラフ」と同時期の「スローステップ」、その後の「虹色とうがらし」と失敗作も続き、青年まんがに移行する良いチャンスでした。

 しかし、その後の「H2」で予想のほか人気が出てしまい、移行のチャンスを失ってしまいました。そして、今なおそれが響き、いまだに少年まんがの舞台に留まることになりました。

 この「冒険少年」は、少年まんがばかり描いているあだち充氏の数少ない青年向けまんがです。作品は全て読み切りで描かれており、内容は、
「子供の頃の悔恨を、大人になって晴らす」
「大人になったことで失った子供の頃の純粋な心を取り戻す」
のどちらかに該当するようになっています。

 この「冒険少年」以外にも「じんべえ」なども読んだことがありますが、それを踏まえた上で書かせていただくと、あだち充氏は青年向けまんがを描く力量に欠けているのではないでしょうか? そして、その力量不足ゆえ、少年まんがから移行できないのだと、そう思わずにはいられません。

 と言うのも、ここに収録されている作品の物語はどれもありきたりですし、ひどい言い方をすれば誰でも思いつくような話ばかりです。つまり、あだち充氏ならでは、という個性が欠けているのです。

 極端な話、もしまるっきり同じものを新人まんが家が描いた場合、到底まんが誌には掲載されることはないと思います。

 もちろん、ベテランまんが家ゆえ、絵や演出は非常に優れています。しかし、肝心の物語が今ひとつではどうしようもありません。少なくとも、この「冒険少年」を読む限り、青年まんが誌への移行はまだまだ難しいと思わずにはいられない作品でした。

 では、少年まんがが活躍の舞台に向いているのかというと、どうにもマンネリ気味でこれまた難しいところですね。ここ最近のあだち充氏の作品を読む限り、新しい風を作品に吹き込むつもりもないようですし、このままゆっくりとフェードアウトしてしまうのかもしれませんね。

 そんなわけで、あだち充氏のファンの方で、青年向けまんがを読みたい方にお奨めしますよ。また、疲れて複雑な内容のものは読みたくない、などと言った時にも良いと思われます。

 余談です。あだち充氏は少年まんがばかり描いていたと書きましたが、昔は少女まんがも描いていたんですよね。昔からのあだち充氏のファンの方ですと、「陽あたり良好」あたりが好きな方も多いようですね。

Amazonで「冒険少年」を検索

目次へ