『にっぽん 虫の眼紀行』書評
豊かな自然、奥深い文化


評者・神戸新聞地域報道部 一木仁
<神戸新聞>1999年1月10日 日曜日 朝刊


日本中がバブルに浮かれていた一九八七年、北京出身の一青年が留学生として来日した。彼が関心を持ったのは、豊かな自然、奥深い文化など、経済の発展につれて忘れられようとしていたものだった。さらに職を得て移り住んだ神戸で大震災に遭遇、「モヤッとしたものがはっきり見えるよう」になり、その体験をエッセイにつづった。

 ユニークな日本文化・日本人論として、中国大陸はもとより、香港、台湾で相次いて出版され、好評を博した「発見日本虫」の待望の日本語版。大震災、ルミナリエなど、神戸に関する章を新たに書き下ろし、二十五編にまとめている。虫の眼とドラゴンの眼。竜はもとより中国のシンボルで、ドラゴンの眼は国家や民族、戦争など大問題を取り扱う視点を意味する。これに対して虫の眼は、「針の先ほどの物事に対しても、全力でそのことに当たり、心から打ち込み、心から悲しみ哀れみ、そして心から感動する」。それは「完全な光景ではないが、真実そのものが存在しているから」と著者。

 小学生の時期を文革の中で過ごした著者は、イデオオギー中心の虚構・仮想の非現実的な世界にいた。日本という現実の中で、感性の再生を果たし、ドラゴンの呪縛から抜け出して、身近な日常に目を向け始めたという。「ルミナリエ」は、震災で幼い愛娘を失ったエンジニアが鎮魂の光に導かれ、自宅跡地に埋めていた娘の塑像に再起を誓う姿を描く。神戸とベルリンに別れ住んでいた著者夫婦が、溪流のイワナの産卵を手助けすることで、きずなを再確認していく「イワナ」。桜と人のかかわりを描く三部作、明石海峡大橋の建設工事に携わる作業員とカモメの触れ合い「明石鳥人」も味わい深い。

 あふれる好奇心と鋭い感性に満ちた作品には、日本文化の底にあるものを再確認させられるとともに、日本とそこに住む者に向けられた、著者の温かい眼を感じることができる。









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