名優・朱旭さん

国宝級の俳優 朱旭を訪ねて
仏さまの顔に
   NHKドラマ『大地の子』養父役の俳優朱旭さん、中国で国宝とまで言われる名優。日本でも"あのお父さんにはぼろぼろ泣かされた"という人も、きっと多いはず。そんな彼は、案外背が高く痩せた背中が人込みのなかで目立つ。スクリーンで演じた男漢の役が背が高いイメージでなかったせいか、つい最近、彼と神戸で再会した時に、その背の高さに私は意外な感じを受けた。

 この意外な感じが、なぜか私が一番好きな彼の主演映画『心の香り』という作品の一場面を思い出させた。今から恐らく10年ほど前の作品だったが、その当時には珍しく仏さまについてのシーンも登場し、若い世代からも大きな共感を得ていた。物語はある老人と子供の出会いから始まる。

まだ幼い京ちゃんという子は、両親が別居したため、おじいちゃん(朱旭)の家に身を寄せる。昔は京劇役者だったおじいちゃんは妻の死後に引退、ずっと独り暮しだったせいか、孫はなかなかその暮らしに馴染めない。歩くとみしみしするほど家も古い。おじいちゃんに蓮おばさんという仲のいい友達がいて、なにかと相談相手になっている。おばさんもかつて京劇の女優だったが、今は熱心な仏教徒で、京ちゃんにすこぶる優しい。蓮おばさんの夫は台湾で生きている。その夫から40年ぶりに戻るという手紙が届いた。しかし、その後夫が急死した。蓮おばあさんもまるで後追い心中のようにあっけなく死んでしまう。

  そして川沿いの路上でおじいちゃんが胡弓を弾き、京ちゃんが京劇を演じる見事な場面がスクリンーに映し出される。これはすべて、おばさんの遺言である仏教の儀式「超度」を執り行なうためであった。そしておじいちゃんと孫の心と技は、この瞬間なんの躊躇もなく完全にひとつになっていく。このシーンに感動したのも、当時の私にとって不思議なことだったかもしれないが、朱旭さんが味わい深く演じたあのおじいちゃんはある意味で仏さまの顔だった気がする。中国流の仏様の恰幅のよさと福福しい顔ではないが、仏さまの目線に涙を誘われた。

朱旭さんと神戸での再会

 今回の来日は、主演映画『こころの湯』(配給・東京デアトル/ポニーキャニオン)の宣伝でもあるが、試写会で舞台挨拶した朱旭さんを見ていると、なぜか彼の顔と親鸞聖人のイメージがだぶっているように思い始めた。では、今度、北京で『歎異抄』の話でもしましょう。私はこう言いながら、彼と一緒に日本のお酒を一気に飲み干した。

中国映画『こころの湯』




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