A Last Look

写真家 爾冬強を訪ねて
「実在の意味を問う」
漢源書店を経営しているのが写真家爾冬強である。この書店は上海文化の景観とも言われ、以前から僕の耳に入っていた。所在地は紹興路なので、上海滞在中のホテルと近い。3月下旬に、日本から彼と連絡を取り、さっそく書店を訪ねてみた。

店内には、古い家具等ならべ、ピアノ、本棚、ソファも年代を語れるような色で飾れ、バランスよく配置されていた。たしかに昔の上海を思い出させるような演出もあるように思ったが、北京生まれの僕にとって、新鮮さ以外の何ものでもなかった。

「そうかね?」爾さんは笑いながら、僕を案内してくれた。上海出身の彼は、いまの町よりは以前の風景に興味を持っているようだ。それはなぜかと聞くと、彼は自分の作品集を取り出して、次のように説明した。

「浦東開放になってから、上海は急速に変わった。むかしの建物は壊されていった。壊されたのは建物だけじゃないよ。人の思いや感情もつぶされたと思う。これによって文化の資源が枯れてしまうことは違いがないんだ。町も冷たくなったいまの上海で、晩年を迎えるこれらの建物をみると何だかかわいそうな気がする。だから、あの時代からいまの姿までに至るある種の哀れも存在しているから、それをカメラに収めて、何かを残そうとしたんだ。」

写真集「A LAST LOOK」は香港で出版されてから、欧米で飛ぶように売れたという。そして、彼は漢源書店を開業し、上海の文化人にゆっくりとできる場所を提供した。彼の写真には、教会や学校、そして体育館などの西洋風の建物が圧倒的に多い。上海の町に植民地の文化が浸透している側面があることはいまでも否定できない。爾さんの話は続いた。

写真家・爾冬強氏

「文化と言っても、かならず形が残る。それは、空気の中まで拡散なんかしないよ。ただ、人の思想になり、あるいは観点や概念を形成するには素材として引用されるだろう。写真は実在を求める。素材でもいい、思想でもいい、現実にあるものを再現すればいいわけだ。」

漢源書店にまた一人、お客さんが見えた。有名な映画監督だ。爾さんは「ヌンハウ」(上海語発音)と挨拶した後、僕に「この人は実在の意味を知っているから、毛君に紹介するよ」と言った。聞くところによれば、実在というものについては、上海文化人の間でひとつの議論にもなっているようだ。

今度機会があったら、皆さんのご意見をぜひ聞かせてほしいと爾さんにお願いした。

その日の午後、上海を離れ、北京に向かった。



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